文=丸山素行 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

流れを引き寄せるタフショットを連続で沈め2連勝に貢献

アルバルク東京との首位攻防戦で2連勝し、栃木ブレックスは地区優勝のマジックを7に減らした。その2試合で持ち味を発揮し、チームに流れを持ってきたのがポイントガードの渡邉裕規だ。

A東京との第1戦、先発ポイントガードでありチームの精神的支柱である田臥勇太がファウルトラブルに陥った際、渡邉は見事なリカバリーを見せた。田臥も「代わったナベがしっかりつないでくれた」と試合後に称えている。

渡邉は田臥の単なる『控え』ではなく、タイプの異なるポイントガードとしてベンチから登場する。コートに立つ際に必要なことは状況判断だ。「負けている状況で出ることも多いので、その状況に応じて自分が点を取らなきゃいけない場面なのか、どこが僕たちのストロングポイントで相手に優っているところなのかというのを判断してプレーをしないといけない。そういう気持ちで入ってます」

実際、A東京との2試合では、いずれもビハインドを背負った状況で登場し、自らも得点を決めて見事に流れを変えた。第1戦が特に印象的だったが、渡邉は劣勢の場面や攻め手を欠いた時に輝きを放つ。今回もショットクロックギリギリでのシュートや、遠距離の3ポイントシュートを決めてチームを救った。

「作られたシュートというのがあまり僕の場合ないと思う」と渡邉は言う。劇的なシュートが多くなる理由を教えてくれた。「例えばピック&ロールを使ってズレを作って僕は打つタイプなので、自分でリズムを作っていければいいと思います。ショットクロックが少なくなる時間が多いので、クラッチシュートっぽくなっちゃうんです」

「ですが、ああいうのは嫌いじゃないんで。ノーマークのほうが多分入らない」と渡邉は笑う。

ムードメーカーは「言われ飽きたのでもういい(笑)」

栃木は連勝を8に伸ばし、終盤にきて調子を上げている。そんな栃木の強さの秘密について「チームでやっている感覚が他のチームより突出してあると思う」と『チーム力』を強調する。

「点を取らなければいけないプレーヤーもいますけど、今日みたいに須田(侑太郎)が途中活躍したり、古川(孝敏)じゃない時もライアンじゃない時もあります。核はあるんですけど、チームとして数字を気にする選手もいませんし、勝ちにこだわるというところだけで言えば大崩れしない気がします」

この『チーム力』はシーズンを通して徐々に養われてきたものだ。「前半戦や下位チームと戦って負けた不甲斐なさだったり、精神的な弱さをみんなで経験したからタフになりつつあると思います」と渡邉は言う。

このチームとしてのまとまりの中で『ムードメーカー』としての役割を担っているかと尋ねると「役割じゃないです、言われ飽きたのでもういいです(笑)」という一言が返ってきた。「ただただ僕はおしゃべりなだけで、病気なんだと思います。楽しいからそうしているだけで、狙ってできたらすごいですよ」とやや自虐的に説明した。

チャンピオンシップ出場を決めた栃木にとってこれからの試合は、ホームコートでの開催を勝ち取るための戦いになる。渡邉はブースターの力に期待を寄せる。「アウェーでもホームでもたくさん来てくれて、ファンの方々のおかげで勝った試合というのも多い。僕たちは心強いです」

絶対的なポイントガードとして栃木には田臥がいる。だがベンチに渡邉がいるからこそ安心して思い切ったプレーができ、プレースタイルの違う渡邉は相手にとって脅威になる。短期決戦ではいかにその試合で力を出しきれるかが重要なカギを握る。『クラッチっぽい』場面で輝く彼の存在感は、チャンピオンシップでますます増していくだろう。