「ケガがなければ、自分が何者なのかを知らなかった」
もともと涙もろいデリック・ローズは、この数日間で何度も泣くことになった。それでもブルズvsニックスという彼が所属した両チームの対戦に合わせて企画された『デリック・ローズ・ナイト』で流した涙は格別なものだったに違いない。今シーズン開幕前に現役引退を決断したローズのキャリアを称えるイベントがハーフタイムに行われた。ローズのキャリアをまとめたトリビュート映像が流れ、ジョアキム・ノアを含む関係者が彼への思いを語り、ユナイテッド・センターを満員に埋めた観客がMVPコールを送る。
前日に行われたファンイベントでも、この日の朝に背番号1がブルズの永久欠番になると聞かされた時もローズは涙を流したが、やはりシカゴのファンの歓声こそが彼の心を最も震わせるようだ。「ここでの僕は厳しい愛情で育てられた」とローズはあらためてシカゴのファンへの感謝を語った。
史上最年少でのMVP受賞。マイケル・ジョーダンの黄金期が終わりを迎えた後、再びこの街にバスケの愛情を取り戻させたのはローズだった。しかし、彼のキャリアは前半こそ輝きに満ちているが、膝の大ケガを負った後は苦しみと流転の連続だった。どのファンも「ケガさえなければ」と言う。この日の会見でもその質問が投げ掛けられたが、ローズは2016年にブルズを離れた後も8シーズンに渡り現役を続けており、そこにもケガ以前に負けないほどの意義を見いだしている。
「もしケガをしなかったら、とは本当に考えないんだ。最後にそういう話をしたのはもう何年も前のことだよ。ケガがなければ、僕は自分が何者なのかを知らないままだったと思う。4回ぐらい優勝できたかもしれないけど、自分と向き合うことから遠ざかっていただろう。誰だってそれぞれストーリーは異なるもので、僕の場合はこうなった。シカゴ出身の人間はどんな困難にも立ち向かっていく。僕もその一人だった」
『デリック・ローズ・ナイト』を控えた数日間でローズは様々な活動を行った。シカゴで1日限定の花屋を開き、その一日店長を務めた。ローズから薔薇の花(ローズ)を受け取り、言葉をかわして記念撮影をするために何百人ものファンが集まった。母校の高校でチャリティーゲームを開催し、息子のPJ・ローズとコートに立った。
その中で、ローズの背番号1が永久欠番になることも発表されている。ブルズの選手で永久欠番になるのはジェリー・スローン(4番)、ボブ・ラブ(10番)、マイケル・ジョーダン(23番)、スコッティ・ピッペン(33番)に続いて5人目。ローズが去った後、ブルズは何人かの若手に1番を与えようとしたが、その都度ファンの猛反発に遭い、選手の方が遠慮して別の番号に変更してきた。
ローズが「そうなったら夢のようだ」と言い、聞かされた時にはまた涙を流した背番号1の永久欠番セレモニーは、2025-26シーズンのどこかのホームゲームで実現する。