アンファニー・サイモンズ

「思い切ってやれば幸運は向こうからやって来る」

トレイルブレイザーズは2020年代に入って地盤沈下が続いている。プレーオフの常連だった時代が終わり、テリー・ストッツが去り、デイミアン・リラードが去った。過去3シーズンは27勝、33勝、21勝しか挙げられず、プレーオフに出ていないにもかかわらず新たなタレントの台頭も頭打ちとなっている。

アンファニー・サイモンズはここまでチームトップの17.7得点を記録しているが、キャリア7年目の25歳はもはや若手ではない。ただ思い切ってチャレンジするだけでなく、チームを勝利たせる決定的な仕事、つまり『エースの働き』が求められている。

とにかくチームが勝たなければ始まらないし、勝てない状況にフラストレーションを抱えているのは誰もが同じだ。「そうだね。勝つために努力しているわけだから、勝てないことにみんなイライラしている。でも、そこで僕らにできるのは成長に必要なことをやり続け、コツコツと積み上げていくだけだ」とサイモンズは言う。

「僕たち一人ひとりが成長し、チームとしてケミストリーを築き続けていけば、いずれ結果が出る。優勝できるとは言わないまでも、今よりずっと良い状況になる。未来は予言できないけど、そうなることは分かっている」

サイモンズの予言は当たった。NBAカップのため中3日と試合間隔が開いてホームで迎えたナゲッツ戦、ブレイザーズは強豪ナゲッツを相手に激戦を演じる。第4クォーター残り5分を切って9点リードからナゲッツの猛反撃を浴びて追い付かれ、サイモンズが強引に得点を狙いに行くもラッセル・ウェストブルックのブロックショットを食らい、そこからマイケル・ポーターJr.のワンマン速攻に繋げられて逆転された。

完全にナゲッツの流れだったが、ここから彼らは何とか踏み留まる。124-124の同点で迎えた残り16秒のラストポゼッション、ボールを託されたのはサイモンズだった。彼に与えられた指示は、「ナゲッツに次のチャンスを与えないよう時間を使って攻めろ」で、延長を見越したものだったが、サイモンズは決めるつもりでいた。

「できる限り良いシュートに持ち込みたいと思っていた」とサイモンズは振り返る。「こういう時はビビっちゃいけない。むしろ逆だよ。子供の頃からこういう場面でプレーすることを思い描いてきたんだから、思い切ってやるべきだ。そうすれば幸運は向こうからやってくる」

こうしてサイモンズは残り時間が3秒になるとフロアを蹴った。そのスピードは一瞬でウェストブルックを振り切り、アーロン・ゴードンとヨキッチのカバーよりも早くリムまで到達するものだった。「自信を持って放った」とサイモンズが言うレイアップがリングに吸い込まれると、スタンドは歓喜に沸き、彼はチームメートの祝福の輪に飲み込まれた。

ナゲッツはタレント力でも組織力でも上だが、安定感を欠いた。思い付きで攻めるような時間帯もあれば、ボックスアウトを忘れたような時間帯もあった。ブレイザーズは力では劣っても、そういった緩みを見せることなく48分間コツコツと努力を積み上げ、それが最後の差になった。

そしてサイモンズは『エースの働き』を見せ、フラストレーションが溜まるチームの連敗を6で止めてみせた。