湧川颯斗

ルーキーが示したディフェンスとメンタルの確かな進化

12月18日、三遠ネオフェニックスはアルバルク東京との中地区首位対決を82-72で制した。これで両チームは18勝4敗で並び、直接対決で2勝1敗と勝ち越している三遠が地区トップに浮上している。

序盤から両チームともに強度の高いプレーを繰り広げ、互角の展開で第1クォーターを終える。第2クォーターになると湧川颯斗と佐々木隆成による連続3ポイントシュート成功で三遠が一歩抜け出し、得意のトランジションも出て主導権を握る。

第3クォーター中盤からは三遠がボールマンへの激しいプレッシャーでA東京のハーフコートオフェンスを機能不全へと追い込み、攻守の素早い切り替えからイージーシュートの機会を作り出すことで、このクォーターで20-10と一気に突き放す。終盤にA東京が3ポイントシュート連続成功と意地を見せるも、最後まで集中力の高いディフェンスを継続した三遠がアウェーで難敵を撃破した。

この試合、三遠は1試合平均12.1得点、3.4リバウンドを挙げている中心選手の吉井裕鷹がコンディション不良で欠場した。この大きな穴を今シーズン初先発の20歳の湧川、23歳の兪龍海と若手のステップアップによって埋めたことが勝因となった。大野篤史ヘッドコーチも、「吉井がコンディション不良の中、ワク(湧川)、龍海と若い選手がしっかりバックアップをし、良いパフォーマンスをしてくれたことが勝利に繋がりました」と称えている。

特に湧川は27分のプレータイムで12得点8リバウンド1アシストに加え、5スティールの大暴れで、A東京を72失点に抑える堅守の原動力となった。194cmの大型ガードとして攻守で大きなインパクトを与えた湧川は「自分の役割を果たせたことが一番良かったです」と、シーズンベストの自身の出来を振り返る。

5スティールについて「ハードなディフェンスが結果に繋がりました。バイウィーク前と比べるとディフェンスは自分でも変わったかなと思います」と手応えを語る。

そして、守備を変えないといけないとの思いに至った経緯をこう明かす。「バイウィーク前の試合を見返していたら、毎試合ディフェンスが課題でした。そこが変わるきっかけで、コーチ陣からいろいろなアドバイスを聞きながらハードでフィジカルなディフェンス、ハンドワークを意識してバイウィーク中は練習をしていました」

湧川颯斗

「ここからもっとステップアップしていきたい」

大野ヘッドコーチも、湧川のディフェンスに対する意識の変化を感じている。「オフェンスは試合に出ていれば点数の取り方、存在感の出し方が分かってきます。ディフェンスは自分で意識しない限り変わっていかないとしっかり伝えました。その中で、彼にディフェンスの気づきがあったと思います。意識を変えないとこのチームでは生きていけない。そのマインドセットができたおかげで今日は良いパフォーマンスだったと思います」

この試合の湧川は、リーグ屈指の強豪であるA東京相手にメンタル面の成長も示した。三遠は12月7日、8日に千葉ジェッツと対戦し、ジョン・ムーニー、 ディー・ジェイ・ホグの中心選手2人を欠いていたとはいえ、難敵相手に同一カード連勝を達成した。だが、湧川は初戦の7日でわずか6分47秒のプレータイムにとどまり、それは富樫勇樹を筆頭とした千葉Jのトップ選手たちに対し、真っ向勝負でぶつかる気持ちの強さを欠いたからだ。

この試合では、日本代表のテーブス海に激しいプレッシャーをかけ続けるなど、1試合を通して闘争心溢れるプレーを見せた。大野ヘッドコーチも「名前負けしてほしくないです。(千葉J戦では)失うものがないのに、自分の持っているものを出しきれていなかったです」と期待ゆえの高い要求を突き付ける。

高卒でプロ転校を果たした湧川は、プロ1年目の昨シーズン、B2に在籍していた滋賀で60試合出場の平均7.2得点、3.2リバウンド、2.9アシストを記録。そして今シーズンは、ここまでB1の優勝候補の三遠で平均12分17秒出場とローテーション入りし、21試合出場、平均4.2得点、2.1リバウンド、0.9アシストを記録。高卒2年目として順調な進化を遂げているが、本人は「シーズンが終わってないのでなんとも言えないですけど、ここからもっとステップアップしていきたいと思っています」と現状に満足することはない。

三遠の日本人選手には、11月のFIBAアジアカップ予選に選出された吉井、佐々木、大浦颯太の『ビッグ3』がいる。そこに次代の代表候補である湧川が、課題にしっかりと向き合って着実に成長している。さらに3&Dとして安定したプレーを見せている津屋一球、197cmのウイングである兪など、三遠の充実ぶりを示した今回の大きな勝利となった。