伝統ある福岡大学附属大濠は常に全国大会の優勝候補に挙げられるが、片峯聡太ヘッドコーチはいつも以上の自信を持って今回のウインターカップに臨む。昨年の準優勝から新チームがスタートし、様々な経験を経て実力を高めるとともに、チームの結束も強くなった。片峯コーチが「1年間しっかり築き上げてきた自慢のチーム」と評する大濠は、各ポジションに充実した戦力を揃え、必要なステップを飛ばすことなく踏んで、1年の総決算となる大会に挑む。
このシーズンだからこそ残せる何かが『GIVE』
──ウインターカップの準優勝で昨年が終わり、新チームになってどんなスタートを切りましたか。
ウインターカップ準優勝と言われると素晴らしい結果のようですが、チャンピオンの背中をベンチから見る光景でシーズンが終わるのは悔しいもので、私の教官室の壁にはその写真が貼ってあります。だから今年は悔しさからスタートして、その悔しさをルーズボール一つ、リバウンド一つに込めて「自分たちはまだまだなんだ」という姿勢で日々に向き合ってきました。
今年のインターハイは地元開催で、その悔しさをエネルギーにするつもりでしたが、準決勝で美濃加茂に敗れました。そこにも悔しさはあったのですが、地元のインターハイであれだけ多くの方に応援していただいて、選手も肌で感じるものがありました。私も含めて、このチームが去年のウインターカップと今年のインターハイで学んだのは『悔しさと感謝』なんです。その2つの気持ちを踏まえてウインターカップに臨みます。
──U18日清食品トップリーグでは6勝1敗で優勝しました。
今年初めて優勝できたことで、選手たちに少し足りなかった『自信』を得られた大会になりました。ウインターカップに向けて、これが『慢心』にならないように。最終調整までしっかりやりたいと思います。
──今年の立ち上げの時に掲げたテーマは『GIVE』でした。
『GIVE』は自分たちが行動を起こして、他者に何か素敵なものを与えられるチームに、個人になろうというところから始まりました。Gは最初から最後までやり抜く姿を大事にする『Grid』で、Iは自分たちが良い影響を周りに与えていこうという『Influence』。そうは言っても勝たないと認められない勝負の世界なのでVは『Victory』です。Eは我々はチームでやっていく中で、うれしい気持ちや幸せな気持ちを共有するように、多幸感という意味の『Euphoria』です。そういったものを見ている人たちに与えられたらという意味の『GIVE』というスローガンです。
去年のウインターカップでは今の3年生が3人、2年生の榎木璃旺を含めて4人がスタートでコートに立っていた経験値のあるチームなので、ただ勝てば良いのではなく、このシーズンだからこそ残せる何かを考えた時に、この『GIVE』というスローガンが良いのではないかと、悔しさでいっぱいの年末年始に考えました。
──そこからチームは順調にステップアップしているように見えます。今の進捗具合は10点満点で表すと何点ぐらいですか。
8点……いや7点かな。本当に良い時には、自分たちのスローガンに向けてやれている、見ている人たちから頭文字の4つを感じ取ってもらえるな、と思うのですが、やっぱりまだまだ高校生なのでムラがあって、良い時もあれば悪い時もあるんです。ただ、その悪い時の質が変わってきて、インターハイの前ぐらいはジェットコースターみたいに良い時と悪い時の差が大きくて、「別のチームになっちゃったのかな」みたいな感じで練習を止めて注意することもあったのですが、それ以降は低い時でも落ちる度合いが少ない、平均値が高くなっていると感じます。
──チームのレベルを問わず、どのコーチもその状態を望むものだと思います。そうなれた要因はどこにあると思いますか。
それぞれが精神的に大人になってきたと感じます。2年生の時はプレーは良くても精神的にはまだまだだったのが、特に試合に出ている上級生が変わってきました。チームに一体感があるのですが、それが楽しく騒ぐような一体感ではなく、「ダメなものはダメ」、「言うべきことは言おう」とスタッフと選手、選手同士でも言い合うようになっています。そうやってできたのが「厳しい中でも勝つことを目的にして、一生懸命に頑張っている姿勢を認め合う」というチーム状態で、ここに持っていけたことで平均値が上がったのだと思います。
仲良し集団ではなく言うべき意見はしっかり言う。お互いに助け合いながら、みんなで伸ばしていく。そういう練習の中での成長が今は見られると思っています。別に一体感を求めているわけではないのに、結果として一体感のあるチームになっている。同じチームの仲間なので認め合うのは大事ですが、「指摘し合う」がまずあった上で「認め合う」に、少しずつなっていきました。
「マインドがちゃんとディフェンスに向いている」
──片峯コーチがそう言えるのは、チームの仕上がりがかなり良いことを表していると思います。ここから優勝するために必要な一手は何になりますか。
「あれもこれもそれも」と思考と行動が分散しないことですね。練習から選手同士でよくしゃべって、情報交換はすごくやっていますが、勝負の中では情報がありすぎても「ただいろんなことを知っているだけのチーム」になってしまいます。ベンチから与える指示もより端的に必要なものを選択する必要がありますが、情報過多になるんじゃなくて情報の中から「これとこれ」という取捨選択を、リーダの湧川裕斗、経験値のある高田将吾や渡邉伶音が求心力を発揮してやれれば。その「これとこれ」に対して全員が一枚岩になれれば、このチームのパワーは相当なものだと思っています。
コートの中での求心力がもう少し出てくれればと思いますが、これはウインターカップの中で今日よりも明日、明日よりも明後日とチームが少しずつ成長できれば、そういう姿になるはずなので、そこは慌てずに。無理に求めすぎてしまうと、「一体感とかリーダーシップを出すことが目的」になってしまうので、そこは気を付けながらですね。ウインターカップも含めて12月29日まで成長できるチームだと思っているので、最後までしっかり頑張ります。
──今年のどこかで、チーム作りで何らかの軌道修正をした部分はありますか。
見竹怜をチームキャプテンにしたことですね。湧川がチームキャプテンとゲームキャプテンの両方をやっていたのですが、トップリーグの途中でケガで数週間別メニューの時期があって、その時期に見竹をチームキャプテンに指名しました。それまでも副キャプテンだった見竹が精神的に大人に近付いてきて、チームを俯瞰して見れるようになり、寮でもすごく兄貴分として慕われているんですよね。そういった良い感じを練習でも出してくれたのがきっかけです。これは湧川がダメなのではなく、見竹がここまでチーム運営の部分で汗をかけるのであれば、湧川もゲームキャプテンとしてコートの中でチームが良い方向を向くことを頑張る方が良いと思って湧川に提案しました。湧川も見竹のことを認めていて、「そっちの方が自分も集中できます」と言うので決めました。
見竹は自分のことを頑張りながらチーム全体のことも見る。湧川はコートの中で自分のこととチームのことを考える。そうやって役割分担したことで、ウインターカップ予選から今まですごく良い状態でチームが回っています。
──今年の大濠のバスケはどんなスタイルですか?
今の選手たちが1年の頃からクローズアウトゲーム、クローズアウトの状態に対してどう攻めるか、キックアウトするのか合わせとかがすごく良いチームになっています。今回のトップリーグでも、そのシチュエーションでのPPP、つまり得点期待値が1あるんですよ。要は100回あれば100点取れるという数字が出るぐらい高確率なので、そこは過去のチームと比較してもかなり強いと思います。
センターの伶音もシュートを打てて、シュートが上手い選手が揃っているのでそういう数字になるのですが、そこは今年のチームの色だと思います。それでいて今すごく良いのは、みんなのマインドがちゃんとディフェンスに向いていること。シュートが入るか入らないかに試合の勝敗を委ねるのではなく、ブレずにやるべきことが「ディフェンスだよ」と3年生中心にすごくよく分かっています。そこは例年になく堅いところですね。
「あまりギャンブルせず、手堅く勝っていけるように」
──シードではありますが、初戦で日本航空と仙台大学附属明成の勝者と当たります。
日本航空は去年のインターハイ王者で、明成は全国にずっと出ている強豪チームなので、試合開始からの3分に集中して戦いたいですね。5試合あるとは言っても先を見すぎないように、一戦必勝で一つずつ丁寧に戦います。リーグ戦と違って負けたら次がないので、選手たちには大胆にプレーしてほしいですが、私としてはあまりギャンブルせず、手堅く勝っていけるように。
ただ、大濠のバスケをしっかりやれば勝てるとの思いもあって、「5試合を勝ち抜かなきゃいけない」ではなく「大濠のバスケを見てもらう機会が5回もある」と前向きにとらえています。去年の悔しい思いからスタートして、1年間しっかり築き上げてきた自慢のチーム、自慢の選手たちなので、フルパワーで戦う姿を一つでも多く見せられる大会にしたいです。
──28日と29日のチケットがすぐに売り切れるなど、トップリーグもそうですがウインターカップの人気もすごく高まっています。そういう部分を肌で感じていますか。
選手たちも普段はただの高校生なのですが、そうやって応援してもらえるのは非常にありがたいです。バスケがここまで人気になって、たくさんの人に関心を持ってもらえるのは私としても本当にうれしいです。ただ、だからこそバスケが上手いかどうかではなく、一人の選手として、高校生として、あるべき姿をちゃんと示すことを選手たちには求めたいですし、我々も正しいあり方のチームを作らないと迷惑を掛けてしまうという思いがあります。
人気になればなるほど、注目してもらえばもらうほど、私たちは「正しい人物」を育てなきゃならない。そう考えると身が引き締まる思いと言うか、襟を正さざるを得ないと言うか。でもそれは日本のバスケが良い方向に進んでいて、その中でも高校バスケがすごく注目されていることを意味するので、我々もそこで良い発信ができればと考えています。
私個人としてもU18日本代表のアシスタントコーチとして活動させていただく中で、もっとバスケを勉強しないといけないと感じますし、日本人として他の国の人たちに後ろ指をさされるような言動や立ち振る舞いはできないと思います。ただ、そういうのは代表の時だけやろうと思ってもどうにもなりません。精神的にもバスケのコーチング的にも日頃からコツコツと頑張るしかない。苦手ですけどね(笑)。でも、やっぱり自分もまだまだ成長しなければいけないと痛感させられる環境に身を置けるのはありがたいです。
──それでは最後に、ウインターカップで大濠を応援する、注目する皆さんへのメッセージをお願いします。
いつも福大大濠トロージャンズを応援していただいて本当にありがとうございます。今年のチームは優勝を目指し、一戦必勝で東京体育館のメインコートで暴れたいと思っています。現地での応援もそうですが、いろんな映像配信も含めて私たちを見てもらい、バスケットボールをもっと好きになっていただけたらと思います。応援よろしくお願いします。