「どうやってアピールしていくべきか、すごく考えているところです」
現在、男子日本代表は11月21日、24日に行われる『アジアカップ2025予選Window2』に向けた強化合宿を行なっている。今回の合宿にはこれまで代表経験の少ない、もしくは初めてというフレッシュなメンバーが多く参加している。
大阪エヴェッサの牧隼利もディベロップメントキャンプの経験はあるが、フル代表の合宿参加は初めてだ。26歳の牧は、筑波大4年時にインカレMVPに輝き、母校を日本一へと導いた後、2019年12月に特別指定で琉球ゴールデンキングスに加入し、昨シーズンまで在籍していた。琉球では故障に苦しむ時期もあったが、主力の一員として確固たるポジションを獲得し、2022-23シーズンのリーグ制覇など数々の勝利に貢献してきた。そして今オフ、さらなるステップアップを求めて大阪に移籍すると、ここまで14試合に出場し平均23分28秒のプレータイムで7.4得点、3.1アシストと3部門とも自己ベストの数字を記録。大阪では中心選手としてより多くの責任を担っている。
牧の大きな持ち味と言えるのが、高いバスケットボールIQを生かした的確な判断力だ。試合の流れを読むことに長け、ボールプッシュをしてどんどん攻めていくべきか、落ち着いてゲームコントロールをするべきなのか、アドバンテージが生まれパスを集めるべき選手は誰なのかといった状況判断に優れている。また巧みなポジショニングによって、フロアバランスをうまく整えて各選手がアタックしやすい状況を作ることができるなど、いぶし銀のプレーが光る。
これは彼ならではの希少な武器ではあるが、スタッツに現れにくいため代表のような短い活動期間で示すのは難しい。トム・ホーバスヘッドコーチから「何ができるのか示してほしい」と言われている中、牧は「それを示すのが難しい中で、どうやってアピールしていくべきかをすごく考えているところです」と率直な気持ちを打ち明ける。
ただ、悩んでいる中でも一つの答えを見つけつつある。「(代表は)ポイントカードがボールを持つ時間の多いバスケットなので、その中で自分も絡んでピック&ロールを使い、3ポイントシュートが打てるところは打っていくべき。ディフェンスのところで他のポイントガードと比べると(自分は)サイズがあると思うので、そういう特徴を少しずつ出せていけたらいいなと思っています」
「自分がやれるとこをやり切らないとチームを勝たせられる選手にはなれない」
牧には圧倒的なスピードや3ポイントシュートといった突出した武器はない。しかし、それを誰よりも本人が自覚して、「どこでもいけることが僕の強みだと思います」と、多彩さに磨きをかけた。「ガードの守備ではフィジカルに行けますし、2番、3番ポジションの大きい相手にも対応できます。そこは僕のマルチな強みだと思うので、しっかりアピールしていけたらと思います」
今回のフル代表の合宿招集は牧個人として一つの大きなステップアップだ。これも大阪が自身により多くの責任を与えてくれたからこそと語る。「琉球の時に比べて、今の方がボールを持てる時間帯、シンプルにプレーする時間帯も増えています。その中でスタッツ的にもっと結果を出していきたいところもありますが、そこを評価していただいたのはすごくうれしいです」
そして彼はこの貴重な経験を大阪でのプレーに還元することを強く意識している。「シーズン序盤で、なかなか勝ち切れない試合もある中で、個人としてもチームとしても何か未来に対してワクワクできるようなプロセスを踏めていると思っています。その中で、個人としてこういうチャンスをいただきました。自分の良さをすぐに理解してもらうのは難しいかもしれないですが、そこでいかにアピールできるか。それは今後、大阪エヴェッサに帰ってからの自分にも繋がってくると思います」
あらためて牧は、今回のサバイバルレースに勝ち残るための肝を「個人の力をいかに出せるか。この部分は今回の代表合宿でのキーポイントになると思います。そこで一つ殻を破りたいです」と語る。
そして、この課題は、大阪の中心選手としての進化にも直結している。「『自分がやれるところをやり切らないとチームを勝たせられる選手にはなれない』と、ここまでの14試合で特に感じました。ここで1本欲しいという時、チームプレーももちろん大切ですが、そこで自分が行くぐらいの気持ちでないといけないです」
代表候補はそれぞれ傑出した武器を持った選手たちばかりだ。だからこそ、彼らに持ち味をより発揮させやすくする一流の潤滑油として、牧の存在がどんな化学反応をもたらすのか見てみたい。