プレーオフ展望

文=神高尚 写真=Getty Images

エンビードを巡る攻防から駆け引きがスタートする

トレードでスター選手を集めてプレーオフを迎えたシクサーズ。個人能力が噛み合っているとは言い難いものの、豪華な戦力を擁するだけに優勝の期待も高まっています。一方のネッツは若手中心で前評判こそ高くなかったものの、選手それぞれの持つ能力を最大限に発揮しており、磨き上げられたチーム戦術が特徴です。

強力な個人能力とチーム戦術という対照的な両チームのシーズン成績は2勝2敗。それぞれが接戦と大差で1勝ずつしており、噛み合う試合とそうでない試合が交互に出てきそうです。

カギになるのは平均27.5得点、13.6リバウンドと圧倒的な破壊力を見せるジョエル・エンビードを巡る攻防です。ネッツはジャレット・アレンとエド・デイビスの2人のセンターがフィジカルな対応で守ることになります。

この2人がエンビードを止められない状況になれば、ネッツは一転してスモールラインナップを採用し、スピードと運動量で勝負に出るでしょう。シーズン中には4人のパワーフォワードを並べるなどネッツが用いる多様な作戦の成否は試合展開を大きく揺るがします。シクサーズもまた細かな選手交代で攻守に戦い方を変化させるだけに、両ヘッドコーチが相手の出方をどう捉えるかは見どころです。

一方でスモールラインナップになれば複数人でエンビードを囲むことになりますが、そこでキーポイントになるのがシュート力に欠けるベン・シモンズにどのようなプレーをさせるかです。カットプレーとパッシングが持ち味のシモンズですが、あえてフリーにされることは間違いないためあえてベンチに座らせ、3ポイントシュート成功率が40%を超えるマイク・スコットとトバイアス・ハリスを優先するのも有効な手段でしょう。スター選手を優先するのか、ネッツへの対抗策を優先するのか、どちらにしても勇気を持って決断する必要がありそうです。

シリーズを7戦トータルで考えると成功と失敗が入り混じりそうですが、そうなると先勝した方が動きやすくなります。エンビードが第1戦を欠場する情報も出ており、アウェーとはいえ格下のネッツは何としても先勝したいところです。

バトラーとラッセル、両チームのエースに注目

ネッツが互角の展開に持ち込んだとすれば、クラッチタイムに試合を決める力を持つ選手として挙げられるのがジミー・バトラーです。11月25日の対戦では3ポイントシュートで逆転勝利を呼び込みました。経験あるスター選手を抱えるという点でシクサーズが有利になりそうですが、当時と違うのはネッツにもオールスター選手まで成長したディアンジェロ・ラッセルがいることです。それまで勝負どころはスペンサー・ディンウィディやカリス・ラベートに譲り、ベンチに座ることも少なくなかったラッセルですが、3月19日のキングス戦では第4クォーターだけで27点を奪ってチームを大逆転勝利に導くなど、その勝負強さでネッツがプレーオフに進出する最大の要因になりました。

バトラーとラッセルの息詰まる攻防戦が見られるのか。どんなにチームが優れていても、最後は個人の決定力に委ねるのもプレーオフならではの戦い方であり、長年東カンファレンスを制してきたのはレブロン・ジェームスの決定力でもありました。時代の移り変わりの中で次にチームに勝利をもたらすのは、どちらチームのエースなのか。クラッチタイムの両エースの攻防が楽しみな対戦カードでもあります。

ドラフトで若手スターを指名し、チームが軌道に乗ったところで決定力あるベテランスターを加えて優勝を目指すシクサーズと、ドラフト指名権がない中でも巧みなトレードでチーム全体を底上げし、ラッセルを決定力のあるスター選手に育て上げたネッツ。ここ2シーズンでチーム強化に成功した点では同じでも、歩んできた道に大きな違いがある両者の対決は、来シーズン以降も続きそうな顔合わせでもあります。

より頂点に近づき、チーム作りの正しさを証明するのはどちらのチームなのか。個人とチーム、それぞれの思惑が交錯する中で、初戦の結果がシリーズ全体を大きく左右しそうです。