4月9日のシクサーズ戦、マイアミだけで放送されたCM
昨秋、「あと1年だけ、自分の『ラストダンス』に付き合ってもらいたい」と現役続行を決断したドウェイン・ウェイドが、16年のNBAキャリアに終止符を打った。
現役ラストゲームをトリプル・ダブルで締めくくった彼は、笑顔でコートを降りた。ウェイドは、バスケットボール選手としてはもちろん、一人の人間としても周囲から尊敬されている。その彼の人となりを表すCMが、話題を集めている。
『バドワイザー』が製作したテレビCMは、ウェイドにとって本拠地アメリカンエアラインズ・アリーナでのラストゲームとなった4月9日のセブンティシクサーズ戦の中継中、マイアミだけで放送されたものだ。
約4分にも及ぶCMは、ウェイドと縁のある5人の人物が登場し、各々のストーリーを伝え、彼に感謝の気持ちを示すために贈り物を手渡す、という流れで構成されている。
アメリカンエアラインズ・アリーナのコートに立ち、「本当に誰が来るか知らないんだけれど」と笑顔で話すウェイド。そんな彼の前に現れた黒人の男性は、真っ当な職に就くのが困難な地域出身だったが、12年前にマイアミで開催されたウェイドのバスケットボールキャンプに参加し、人生が一変した。『CNN』によれば、この男性はキャンプが開催されたオーバータウン・ユースセンターのメンターとして地域に貢献しているという。そんな彼は、初めて仕事の面接に行った時に着たという黒のジャケットにメッセージを書き入れ、ウェイドにプレゼントした。
大学を卒業した時に着用する帽子とガウンを持って現れた女性は、ウェイドが主催する財団から贈られた奨学金により、彼と同じマーケット大学を無事に卒業。家族の中で初めて大学を卒業したことをウェイドに報告し、帽子とガウンと共に、感謝の気持ちを伝えた。
2018年2月14日、フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が起こったことは、まだ記憶に新しい。この事件では17人の犠牲者が生まれ、全米で銃規制を訴える声が強く起こった。地元の高校生が立ち上がったことを知ったウェイドは、同年の2月24日、事件発生後初のホームゲームをアメリカン・エアラインズ・アリーナで開催した際、試合前にマイクを握り、学生たちの行動を支持すると表明した。その犠牲者の一人、ホアキン・オリバーという学生はバスケットボール選手で、生前ウェイドの大ファンだった。彼が自身のジャージーとともに埋葬されたことを聞き、心を痛めたウェイドは、故人に哀悼の意を捧げるため、彼の名を書き入れたシューズを履いて試合に臨んだ。そのホアキンの姉が、弟が最後に出場した試合で着用したジャージーを手に持って登場し、ウェイドに感謝の気持ちを伝えた。
またある女性は、2010年のクリスマスの10日前に自宅が全焼する火事に遭い、全てを失った。この話を知ったウェイドは、彼女に1000ドル(約12万円)のギフト券をプレゼントし、家族と面会した。彼女は、「人生で最悪の瞬間だった」と振り返った当時について語り、寄り添ってくれたウェイドを「私たちのヒーロー」と称えた。
そして最後に現れたのは、ウェイドの母、ジョリンダ・ウェイド。ジョリンダは、ウェイドが幼い頃にドラッグに溺れ、麻薬所持の罪で逮捕された。『CBN』が制作したドキュメント番組で、ジョリンダは刑務所に面会に来たウェイドから「ママ、愛しているよ」と言われた瞬間、不甲斐ない自分に対する怒りが芽生えたことを告白している。それから更生したジョリンダは、牧師となった。そしてNBA選手として大成したウェイドから、教会という大きなプレゼントを贈られた。逮捕された時の心境を、ジョリンダは「もう2度と戻れないと思った」と、回想。そして、ウェイドから贈られたという紫のローブを手渡し、「紫は、誠意のシンボル。あなたは、これまで接して来た誰に対しても誠実だった」と語りかけた。
2018-19シーズンを通して、ウェイドは対戦チームの選手とジャージーを交換して来た。そのコレクションの数々は、将来的におそらく何らかの形で展示されるだろう。その中には、CMで共演した5人からの贈り物も含まれるに違いない。