ビンス・カーター

「僕が成長していく姿を見ていた人たちがここにいる」

ビンス・カーターの15番はラプターズの歴史で初めての永久欠番となった。その式典でカーターは「ここでビンサニティ、エア・カナダ、ハーフマン・ハーフ・アメイジングは生まれた」と語った。ネイスミス・バスケットボール殿堂入りを果たした半月前には笑顔だったカーターだが、現地11月2日に行われたラプターズでの永久欠番式典ではこみあげる感情を抑えられず泣きっぱなしだった。

トロントのファンに拍手を送られるのは20年ぶりだ。カーターは驚異的な運動能力を生かした才気溢れるプレーで、1年目に新人王、2年目には最多得票でオールスターに選ばれ、クラブ創設から間もないラプターズを盛り立てた。『ビンサニティ』、『エア・カナダ』、『ハーフマン・ハーフ・アメイジング』という呼び名はすべて、この時期にトロントのファンから付けられたもの。カーターはラプターズのエースであり、アイドルだった。

しかし、その関係は破綻した。フロントと衝突したカーターはトレードを要求し、やる気のないプレーを続けることでフロントに圧力を掛けた。こうした強引なやり方が仇となり、トロントに戻るたびにアリーナが割れんばかりのブーイングを浴びせられた。

そんな関係がようやく修復された。バスケットボール伝統入りの表彰式でビンスは「僕はラプターズの一員として殿堂入りする」と言った。22年のキャリアで多くのチームでプレーしたが、ラプターズこそが特別であることを明言したのだ。

そして今回、トロントのファンも彼を受け入れ、アリーナに掲示される15番のジャージーに敬意を込めた拍手を送った。カーターは感涙にむせびながら「ありがとう」と繰り返した。

「21歳の時にここに来て、27歳で去った。そして43歳で引退するまで、僕が成長していく姿を見ていた人たちがここにいる。そう考えると感情が抑えられなかった」とカーターは言う。

10年前にも雪解けの瞬間はあった。グリズリーズの一員としてトロントにやって来た時、ラプターズ時代のハイライト映像が流され、人々はブーイングではなく歓声を上げた。「みんな、いろんな感情を持っていたんだろう。『やりすぎだったのかもしれない』と思ってくれる人がいた。愛情が生まれたのも、移籍して怒りに変わったのも、それは僕が常に全力でプレーして、宙を飛び、ダンクを決めようとしていたからだ。こうして今日、みんなが15番に拍手してくれるのを見ることができて本当に良かった。僕の15番がアリーナに掲げられる日に、『VC(カーター)最低』から『おめでとう』にみんなの声が変わる。こんなに素晴らしいことはないよ」