佐古賢一の『バスケット談義』vol.12~熾烈を極める昇格レース、「良いことも悪いことも一蓮托生」広島のファンとともに

佐古賢一の『バスケット談義』vol.12~熾烈を極める昇格レース、「良いことも悪いことも一蓮托生」広島のファンとともに

2017/03/23

文=岩野健次郎 写真=高村初美

華々しいスタートを切ったBリーグにあって、2部リーグである「B2」はやや注目度が落ちるが、それでもB1所属クラブに劣らぬ実力を備えた強豪も存在する。その一つが広島ドラゴンフライズだ。初年度のB1昇格を虎視眈々と狙うチームを率いる「Mr.バスケットボール」こと佐古賢一ヘッドコーチに、チームの状況やバスケ界の話を聞く。

PROFILE 佐古賢一(さこ・けんいち)
1970年7月17日生まれ、神奈川県出身のバスケットボール指導者。中央大学3年次に日本代表入り。卒業後はいすゞ自動車リンクスに入団し、2002年にはアイシンシーホースに移籍して「プロ宣言」をした。ずば抜けた技術と勝負強さで数々のタイトルを獲得し、2011年に現役引退。広島の初代ヘッドコーチとして2014年から指揮を執っている。

首位を走る島根スサノオマジックを、広島ドラゴンフライズと熊本ヴォルターズが追うB2西地区の上位争い。プレーオフ出場圏内となる2位以上のポジション確保に向け、広島はライバルの熊本をホームに迎えた。今シーズンの昇格争いを占う『大一番』は、第1戦は56-59で敗れ、第2戦で76-74の勝利。どちらも息詰まる接戦の末、1勝1敗の痛み分けとなった。
広島を率いる佐古賢一ヘッドコーチに、この『大一番』を振り返ってもらうとともに、苦しい状況でもあきらめずに前に進む気概をファンと共有できる、「我々はファンと運命共同体」という考え方について語ってもらった。

残り5分を切って12点差「全部出し切れ」と伝えました

──3月17日の初戦は56-59の惜敗。残り10秒まで1点差と競ったゲームだけに、残念な結果となりました。

全体的に締まったゲームになりました。その中で我々の準備してきたことはできたと思っています。ただオフェンスで『当たる』選手が全く出なかったのが痛かったですね。ホームで2連敗は許されないので、気持ちを切り替えて、明日は全力で戦おうと伝えました。

──第2戦も前日からの厳しい流れが続き、第4クォーター残り5分の時点で12点ビハインドの状況でした。ここから追い付き、延長戦を制して76-74での勝利。追い付いた時にはもう勢いがあると思いますが、2桁の点差で負けている時にモチベーションを保つのは難しいと思います。

正直なところ、雰囲気は良くなかったですよ。オフィシャルタイムアウトの時点で、 「もうやるしかないよ。開き直ってエナジー出していこう」と伝えました。「全部出し切れ」と。 

──逆転劇のきっかけになったのは何でしょうか? 

バスケット・カウントとなった朝山(正悟)の3ポイントシュートですかね。これを機にチームが「やれるんじゃないか」という気持ちになりました。そしてコナー(ラマート)の3ポイントシュートも続き、流れがグッとこちらに来ました。後は北川(弘)の3ポイントシュートやフローター、ダニエル(ディロン)の力強いフィニッシュが続く展開となりました。 

特に北川はすごく気持ちが強くなりました。選手として一皮むけるにはどういう形でプレーすればいいのか、自分の中で整理ができています。金曜の試合では3ポイントシュートが4分の0、2ポイントが6分の0だったのですが、シュート自体はすべて意味のあるシュートで、決して悪くはなかったんです。

ダニエルは金曜の第2クォーターにチームのブレーキとなったので、外国籍選手はビッグマン2枚で戦うしかないかと考えていたのですが、土曜はダニエルも決して悪くなかったので、最後はダニエルで行こうと決めました。北川もダニエルもバックアップですが、この2人で流れを変えられると期待してコートに送り出しています。

バスケットはチームで戦うものだと感じさせられた

──逆境に強いチーム、選手を作るために、練習で何か特別なことはやっていますか? 

正直なところ、コーチとしての経験が浅い私には選手を作り上げたことがありません。今の私ににできるのは、自身の選手としての気持ちを伝えていくことだと考えています。

私が逆境に強かったかどうかは分かりません。ただ、現役の時は「ここでやらなければ絶対に後悔する」と自分に言い聞かせながらタフな試合を戦ってきました。私はアキレス腱断裂や骨折といった大ケガも経験しているので、その場にいることができない悔しさというのを十分に分かっています。ですからチャンスを与えられていることに感謝して、「出し切る」ことに専念していました。 

そのためには、普段から大舞台やタフなゲームに対して準備しておくことが大切です。メンタル的にはそういった強い気持ちを選手に持たせるよう心掛けていますが、技術的なことを言うと、練習ではほとんどの場合「追うシチュエーション」を作って、常にタフな状況をシミュレーションし、その中で正しい判断をする訓練を行っています。 

──佐古さんの選手時代を振り返って、記憶に残る『逆転劇』はありますか?

一番すごかったのはアイシン在籍時代、2003-04シーズンのセミファイナルで戦ったパナソニックとの試合ですね。 第4クォーター開始時点で22点差ぐらいで負けていました。第4クォーターの途中で、おそらくベンチも翌日のゲームのことを考え、主力メンバーを下げたんです。ところが、バックアップの選手がものすごい勢いで追い上げて、あれよあれよと10点差になりました。

私自身は残り4分ぐらいのところで試合に戻りました。この時、バックアップのおかげでイケイケの流れが来ていたんです。最後は2点差で負けていて、残り時間も1秒ほどしかなく、しかもバックコートのベースラインからボールを入れる状況でした。それでも(桜木)ジェイアールがハーフコート近くでボールを受けて走り、試合終了のブザーとともに放った3ポイントシュートが決まり、劇的な幕切れとなりました。

ここで分かったのは、やはり『流れ』や『展開』がすべてということです。バックアップの勢いはすごく大事だし、心強いものですよね。バスケットはチームで戦うものだと感じさせられたゲームで、とても勉強になりました。 

──そういう状況だと、どんな心境でプレーするのですか?

オフェンス回数をいかに増やすかを考えます。また、ディフェンスでは毎回絶対にストップ。こういう追い上げるシチュエーションでは、すべてをほぼ完璧にやらなければいけません。3回オフェンスがあったら少なくとも2回は決める、3回ディフェンスがあったら少なくとも2回はストップする。本当に大変です(笑)。

良いことも悪いことも一蓮托生、その環境が広島にはある

──第2戦の大逆転劇は、ファンにも大きなインパクトを与える、『あきらめない心』の大事さを伝えるメッセージが色濃く出た試合になったと思います。

これは普段から感じていることですが、我々のバスケットの結果やプロセスに注目していただいている、バスケットボールを通じた『人生ドラマ』を見て評価していただけるという環境は「恵まれている」なあ、と。

ファンの皆さんにもそれぞれの人生があります。それぞれのドラマ、喜怒哀楽がある。だからバスケットをする我々の姿という『鏡』を通して、楽しさも悔しさも共有できる。みんなタフな状況の中で決断して、前に進まなくちゃいけないことがある。そういうものを背負って生きているんですよね。

私の人生もそうです。辛いことがあっても、どんなに悪い状況の中でも、『心を折らずに』あきらめずにやれば、必ず自分を取り戻すことができます。そういうチャンスは必ずどこかで巡って来るものです。我々の試合を見に来るファンの方は、「どんな時でもあきらめない」という『資質』を持っている。だから会場に足を運ぶのだと思います。

そういった意味で我々はファンと運命共同体であると感じています。良いことも悪いことも一蓮托生。勝つことも負けることも共感できる。そういった環境が広島にはあるので、我々は幸せですよ。ですから勝ち負けよりも、良いことも悪いこともすべて含めて、ファンの皆さんとこれからも共有していきたいと考えるのです。 

RECOMMEND