「ハーディーとは喜びも悲しみも共有してきた仲だ」
パティ・ミルズはNBAで16年目のシーズンをジャズでスタートさせた。NBAキャリア最初の2年をトレイルブレイザーズで過ごし、その後に10年を過ごしたスパーズでシックスマンとしての評価を確立。ネッツでの2年を経て、ホークスとヒートでプレーした昨シーズンは出場32試合と存在感を失いつつあった。それでも彼は今オフ、パリオリンピックでオーストラリア代表のチームリーダーとして健在ぶりを示し、大会終了後に1年330万ドル(約4億5000万円)の契約でジャズに加わった。
すでに36歳で身体的なピークを過ぎたのかもしれないが、ジャズでの挑戦にモチベーションは高い。その第一の理由は、スパーズ1年目からの付き合いの指揮官ウィル・ハーディーにある。「スパーズに来て最初に仲良くなったのがウィルだった。初めて2人でワークアウトをしたのが21時からだったのを覚えているよ。彼はコーチとして、僕は選手としてそれぞれ成長する中で、喜びも悲しみも共有してきた仲だ。彼がジャズのヘッドコーチになって成功を収めたことは、僕にとっても最高の喜びだった」とミルズは言う。
ジャズ加入の最初のきっかけは、オリンピック期間中のハーディーからの電話だった。「オリンピックで忙しかったけど、彼とはずっと電話で話していた。準々決勝で負けた数日後、僕らの会話はより具体的になり、このチームでどんな役割を果たせるかを議論するようになった。若い選手の成長を手助けし、ジャズが長く発展していくための基盤を作る。僕が得意としていることを彼が必要としているのが分かって、パリの街で交わすその会話にとてもワクワクしたよ」
ジャズは27歳のラウリ・マルカネンをエースとし、彼より年下の選手を中心としたチームを育てていこうとしている。36歳のミルズはそのタイムラインに合わないが、キャリア晩年をジャズの基盤作りに捧げることを喜んで受け入れた。
「16年目だけどまだ何も分かっていないし、学び続けなきゃならない。この気持ちこそが成長に必要な要素だ。若い頃にそのコツを身に着ければ、ずっと役に立つ。彼らを正しい道に導き、自分らしくあることを認めて思う存分プレーを楽しませる。それはコーチや他の誰かにもできるけど、同じロッカールームの仲間に導かれるのも大事だ。心配はしていない。チームに合流して若手を見た時、どの選手もオフの間にしっかり準備してきたことが分かったからね。バスケに取り組む真摯な姿勢と強い絆があれば、すべては上手くいく。でもそれは強制されるのではなく自然に生まれなくてはならない。その繋がりが生まれれば、コートでのすべてが上手く回るようになる。トニー(パーカー)、マヌ(ジノビリ)、ティム(ダンカン)がそうだったようにね」
ジャズ加入が決まり、ミルズが新たなチームメートの中で真っ先に連絡を取ったのは、20歳のブライス・センサボーだった。「背番号8のことなんだけど、どれぐらい気に入っている?」というのが会話のスタートで、ミルズがチームに合流する前に2人は電話でいろいろな話をした。センサボーは8番に大してこだわっておらず、ミルズに譲ることを快く受け入れた。「背番号への思い入れはあまりなかったし、僕は信心深くて、この世のものに固執し続けるべきではないと学んでいたから」とセンサボーは言う。
一方でミルズが8番にこだわる理由も信仰から来ている。「僕はオーストラリアの先住民としての文化を誇りに思っている。メリアム文化では『8』はタコの形をした神を表す。その8本の腕はメリアムのそれぞれの部族を表していて、僕はその一つのダウアレブウ族だ。僕にとって背番号8は、故郷にいる家族や仲間を代表することを意味する」
若手中心のジャズで、ミルズは中心選手とはならないだろうが、頼りになるベテランとしての存在感はすでに発揮している。そしてコートに立った時にはお馴染みの背番号8を背負い、颯爽とプレーする姿が見られるはずだ。