「後半の出だしで自分たちから崩れてしまった」
9月23日、川崎ブレイブサンダースは天皇杯2次ラウンド最終日で群馬クレインサンダーズに83-99で敗れた。Bリーグ発足後の2017年以降では2度の優勝を含む6度の4強入りを果たしていたカップ戦で、早々に敗退した。
10年以上に渡って大黒柱を務めていたニック・ファジーカスが昨シーズン限りで引退。さらにエースガードの藤井祐眞の移籍もあり、今シーズンの川崎は欧州での経験豊富なロネン・ギンズブルグ新ヘッドコーチの下、これまでのハーフコートオフェンス主体とは真逆のスタイルへと変貌した。ビッグマンを含めた5人全員がコートを走り回り、トランジションから積極的に長距離砲を放っていくアップテンポなバスケットボールを指向している。
ロスコ・アレン、アリゼ・ジョンソンというハンドリングと機動力に優れた両ビッグマンが、積極的にボールプッシュすることによるスピードに乗ったオフェンスは迫力満点。彼らのドライブからのレイアップ、キックアウトからの3ポイントシュートがうまく噛み合った時は、リーグ屈指の破壊力を生み出せている。
だが、ディフェンスでは指揮官の求める強度でプレッシャーをかけ続けられているとは言いがたい。チーム1の高さを備える211cmのサッシャ・キリヤ・ジョーンズの故障欠場を考慮しても、簡単に崩されてゴール下でのイージーシュートを許す場面が多い。攻撃回数を増やすことで守備回数も増えるとはいえ、プレシーズンマッチ、天皇杯と直近4試合はすべて失点90点超え。変革の真っただ中だからこその可能性と不安定さを露呈している。
その中で印象的なプレーを見せている代表格が飯田遼だ。群馬戦では第1クォーターだけで3本の3ポイントシュートを決め、試合全体では7本中6本成功と爆発し18得点をマークした。また、前日の信州ブレイブウォリアーズ戦でも3ポイントシュートを3本中2本成功させており、2試合連続で結果を残した。
群馬戦の試合後、飯田は次のように話した。「入りは悪くなかったと思いますが、後半の出だしで自分たちから崩れてしまったところが課題です。昨日、今日と2試合通してチームの成長は見られていると思います。今年はもう天皇杯のチャレンジが終わってしまいましたが、この経験をしっかり2週間後に始まるリーグ戦に生かしたいです」
そして新指揮官の印象を「あまり戦術を伝えすぎないと言いますか、その場その場の選手の判断も尊重してくれます。だからこそ、ちゃんと選手たちが考えてコミュニケーションをとりながらプレーしないといけないです」と語ってくれた。
「走るバスケが強みになってきつつある」
在籍2年目となる飯田だが、昨シーズンは48試合出場で平均9.3分のみと、自身初のB1で思うような結果を残せなかった。だが、武器である長距離砲とハードワークをギンズブルグヘッドコーチに評価されて群馬戦では先発起用となり、天皇杯の2試合ではともに20分以上の出場と主力の座をつかんでいる。
ここまで主力の一員として起用されていることに、「ありがたいですが、それがすべてではないです」と飯田はしっかりと足元を見つめている。
「スタートでもそうでなくても、同じようにプレーしたい意識はあります。シュートだったら思い切りよく、ディフェンスではアグレッシブに頭を使いながらプレーしたいです。ただ、最初から試合に出してもらっている以上はトーンセット、ディフェンスでの基準をしっかり作らないといけない。そういう部分での責任はあると思っています」
そして、まだまだ発展途上であるが、走り続ける新たなスタイルに大きな手応えを得ていると話す。「今までバスケをやってきた中でもあまりない感覚で、楽しい部分が大きいです。あれだけ走れば相手も嫌だと思います。どこからでもみんながシュートを狙うとなれば、スカウティングで対策しきれないですし、これまでの試合で相手が驚いている感じもしました。走るバスケが強みになってきつつあると思います」
飯田は185cmとウイングとしてのサイズはなく、それを補うような傑出した跳躍力などもないかもしれない。だが、運動量と長距離砲に優れ、川崎の新スタイルとの相性は抜群だ。
特別指定を経て2018-19シーズンからプロバスケ選手のキャリアを歩んでいる飯田だが、B1で主力の経験はなく、B2でも平均20分以上のプレータイムを得たのは香川ファイブアローズ時代の2022-23シーズンのみだ。しかし、今、自身の持ち味を存分に生かしてくれる指揮官の下、大きな飛躍のチャンスを迎えている。
「今、29歳ですけど、何歳でも成長するチャンスはあると思います。現状に満足することなく自分の課題、チームの課題と向き合って、毎日、しっかり積み重ねられるようにやっていきたいです」
飯田が3&Dとして大きなステップアップを果たすことができるかは、川崎の今シーズンの行方に大きな影響を与える要因となるかもしれない。
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