マーケル・フルツ

マジックは彼を評価しながらも『残さない』決断を下す

あと1週間から10日でNBAの各チームがトレーニングキャンプを始め、2024-25シーズンに向けた本格的な活動に入る。今オフの移籍市場はサラリーキャップの新ルール導入で各チームが様子見に入り、例年より動きは少なかった。それでもフリーエージェントとなった選手が最上位のポール・ジョージから順番に新たなチームを見付けていく中で、マーケル・フルツはいまだ新天地を見付けられないままだ。

2017年のNBAドラフトで全体1位指名を受けてセブンティシクサーズに加入したフルツは、いきなり厳しいスタートを切った。デビュー前からシュートフォームが大学時代と違うことが指摘され、それは肩の違和感から来るものだったが、それにまつわる議論は19歳の彼に大きなプレッシャーとなった。大きな注目を集めたデビュー戦から4試合に出場しただけで5カ月の戦線離脱。あちこちの病院を回っても肩の違和感の理由は判明しなかった。

1年目は14試合、2年目も19試合のみの出場。2年目の最後に、肩はケガではなく神経組織の課題であることが判明したが、この時すでにシクサーズはフルツに見切りを付けていた。ジョエル・エンビードとベン・シモンズにジミー・バトラーを加えることで再建にケリを付けようとしていたのだ。この狙いは外れるのだが、フルツをマジックにトレードして手に入れた指名権でタイリース・マクシーを得たのだから、シクサーズにとっては悪くなかったのかもしれない。フルツも『落第』のレッテルを貼られてシクサーズを追われたが、彼に必要だったのはマジックの環境だった。

マジックはシクサーズでの苦境を見てもなお彼を評価しており、心身をケアしながら時間がかかっても本来の力が出せるよう働きかけた。そのおかげでマジック1年目の2019-20シーズン、彼は72試合に出場して12.1得点、5.1アシストを記録する。この活躍で2020年オフには3年5000万ドル(約75億円)の契約を勝ち取るも、左膝前十字靭帯を断裂して続く2シーズンでの出場は26試合に留まった。2022-23シーズンは60試合に出場し、先発ポイントガードとしてキャリアハイの14.0得点、5.7アシストでチームの再建を終わらせたが、昨シーズンは再びケガに苦しんだ。

マジックは若いチームが急成長を続ける上で、フルツがメンターとして大きな役割を果たしたと認識している。それでも今オフ、ケンテイビアス・コールドウェル・ポープを獲得する時点でフルツとの再契約をあきらめた。すでに保証された契約を持つ選手が15人いて、バックコートはジェイレン・サッグスにコールドウェル・ポープ、コール・アンソニーにギャリー・ハリス、アンソニー・ブラックと質も量も充実している。

マジックがまだ再建中であればそれなりの待遇で彼を残せただろうが、昨シーズンにプレーオフに進出し、新進気鋭のチームがまだまだ上を目指せる状況で、フルツを抱えておくことはできなかった。

ロスターに空きのあるチームはまだいくつかあるが、マジック以上にフルツの能力やリーダーシップを理解しているところはない。それよりむしろ、ケガの多さやジャンプシュートの不安定さ、あるいはすでに乗り越えたメンタルの問題などを気にするチームの方が多いのだろう。様々な経験を乗り越えながらもまだ26歳のフルツは、自分に合った活躍の場を見いだせるだろうか。