文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

大阪戦で勝利を引き寄せた『6点プレー』の背景

Bリーグ第23節、アルバルク東京は大阪エヴェッサとの連戦で初めてディアンテ・ギャレット抜きの戦いに臨んだ。第2戦ではアジャストできたものの、第1戦ではオフェンスが噛み合わず、リーグ2位の攻撃力を誇るA東京が大阪を攻めあぐねる展開となった。

ケガのギャレットを欠いた試合について、菊地祥平は「一人じゃなくてみんなでカバーしようという話をしてきました」と言う。具体的な対策として、2ピックを想定したオフェンスなどを準備したものの「慣れない部分も噛み合ってない部分もあって苦労しました」と苦戦を認める。

得点が伸びず苦しむ展開からチームを救ったのは、その菊地だった。コート外に出ようとするロングリバウンドをマイボールにし、自ら3点プレーとなるバスケット・カウントを決める。加えてジョシュ・ハレルソンのテクニカルファウルを誘い、フリースローとポゼッションまで得るビッグプレーだった。

このプレーを生み出した判断を菊地はこう振り返る。「相手が油断すると思ったので、わざと出るふりをして持って行って、相手との1on1になりました。後ろに走って来たのがジェフ(エアーズ)で、落としてもジェフがリバウンドを取ってダンクしてくれると思ったので、シュートまで行こうと判断しました」

結果的にこの1プレーから『6点』が生まれ、大阪を突き放した。ただ、その後も大阪に粘られ、残り2秒、2点リードの場面でフリースロー2投の機会が菊地に回ってくる。その緊迫した場面で菊地は2本とも成功させ、接戦に終止符を打った。

努力は裏切らない。2月22日の栃木ブレックス戦では、菊地が終盤に2本のフリースローを落としたことをきっかけに逆転負けを喫している。その悔しさからフリースローを徹底的に練習した成果が出た。

ファウルをもらえば「意思疎通をする時間を作れる」

第1戦ではオフェンスで勝利に貢献した菊地は、第2戦ではディフェンスで目立った。18点リードで迎えた後半、大阪が反撃に打って出たタイミングで、フットワークとディナイを駆使する菊地が、大阪の攻めたいポイントをことごとく潰したのだ。

菊地は190cmと長身ながら3ポイントシュートも打つことができる。その強靭な身体は攻めでは強力なインサイドプレーを生み出し、守備では強さとスピードを良いバランスで機能させる。相手チームにとっては非常に厄介なオールラウンダーなのだ。

それでも彼の一番優れているポイントを挙げるとすれば、試合を読み、相手に流れが行きそうな時にひと仕事をやってのけるIQの高さだろう。

試合の流れをコントロールする点で菊地は「相手が乗りそうな場面では意識してファウルをもらうようにしています」と、試合中の『小さなタイムアウト』を狙って取っていると語る。「特にフリースローになれば、選手は休めますし、タイムアウトじゃなくても監督と指示の意思疎通をする時間を作れます」

しかし、ファウルは狙って取れるものなのだろうか? 「チームメートが誰に付かれているのかを考ます。僕がスクリーンにいってわざとスイッチさせて、チャンスを作ってファウルをもらうというのは意識してますね」と菊地は教えてくれた。

頭脳的で渋いプレーを続ける菊地が目指す『いぶし銀』

そんな頭脳的で渋いプレーを語る菊地に「いぶし銀ですね」と伝えると、彼は「ちょうどそれを目標にプレーしているんです」と笑顔を見せた。

「今シーズンの目標が『いぶし銀』なんです。ファンの方に『いぶし銀』っていうせんべいをいただいて、これは良い目標になるなと思ったんですよ」

A東京は乱闘事件や外国籍選手の契約解除があり、さらにはここに来てエースのギャレットが手首のケガで離脱するなど、アクシデントの多いシーズンとなっている。それでも栃木を1ゲーム差で追う白熱した首位争いを続けていられるのは、菊地のようなバスケットIQの高いベテランが安定した働きぶりでチームを支えているからだ。

派手なプレーばかりではなく、菊地のような『いぶし銀』なプレーの数々も、バスケ観戦の楽しさの一つ。これからも菊地の一挙手一投足に注目していきたい。