サンダー

ギディーのトレード要求が『勝つチーム』への転機に

昨シーズンのサンダーはナゲッツとティンバーウルブズとの混戦から最後の最後に抜け出し、激戦の西カンファレンスでトップシードを勝ち取った。再建に入った2020年から3シーズンはプレーオフを逃したものの、これだけの期間で再建を終わらせたのは驚異的だ。しかも、エースのシェイ・ギルジャス・アレクサンダーはこれから全盛期を迎える26歳で、ほとんどの選手がそれより年下。優勝候補となった今のサンダーは、『王朝』を築く可能性さえ秘めている。

サム・プレスティGMはケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルック、ジェームズ・ハーデンを擁するも競争力を長く維持できなかった反省を生かした。ケガもあるし、選手がトレードを希望することもある『不確実性』に向き合う中で、彼はタレントの質だけでなく量にもこだわった。

可能性を秘めた若者を獲得するだけでなく、その可能性を具体的なバスケの実力へと変えるマーク・ダグノートを指揮官に抜擢。この3年間は勝つことに執着せず、才能ある若手と指名権をかき集めながら、成長へとフォーカスした。

難しいのはその先のプロセス、つまり『どのタイミングで勝ちに行くか』だ。勝つこととのトレードオフで若手と指名権を得るだけならば、それは優れたGMとは言えない。勝利よりも成長にフォーカスする局面から、勝利を追い求めるチームへの転換は、思いがけぬタイミングで訪れた。ジョシュ・ギディーのトレード要求だ。

タレントの質と量がいくら充実しても、一つのボールと1試合240分のプレータイムをチームでシェアしなければならないことに変わりはない。ギディーはサンダーに愛着も恩義も感じていたが、プロとしてプレータイムも役割も減っていく状況を受け入れることができなかった。これはギディーに限らず起こり得ることで、それ以前にもトレイ・マンやアレクセイ・ポクシェフスキーがサンダーを去っている。

急成長の波から取り残された若手が新たな活躍の場を求める一方で、サンダーは『勝つための補強』に転じ、アレックス・カルーソとアイザイア・ハーテンシュタインを獲得した。若手の指南役でしかなかったゴードン・ヘイワードやビスマック・ビヨンボとは違い、即戦力である彼らの獲得は戦力アップには繋がるが、成長しようとする若手のプレータイムを削ぎもするため、今後ギディーのようにサンダーを離れる選手は増えていくはずだ。

しかし、それこそがプレスティGMの志向する『不確実性』に向き合いながらの中長期的なチーム作りだ。上位争いを演じるチームであればどこも欲しがるカルーソを、トレード希望のギディーとの交換で手に入れた。残しておきたい若手を放出したわけでもなければ、指名権を手放したわけでもない。今後も、出場機会を求めて移籍を望む若手を、即戦力なり指名権と入れ替えられる。

指名権もまだまだ数多く抱えており、これも補強に使えるし、何らかのトラブルや大きなケガで不良債権になる選手が出ても、指名権を付けてトレードに出すこともできる。これがプレスティの『不確実性』への答えだ。サラリーキャップとの折り合いを付けなければいけないのはどのチームも同じ。ただ、様々なトラブルが起きても乗り越え、中長期的に優勝争いを演じられるチームをプレスティは作った。

オールスターへと成長したシェイに続く、ジェイレン・ウィリアムズ、チェット・ホルムグレンというスター候補を擁し、ルーゲンツ・ドートにカルーソと苦しい局面で勝ち筋を見いす選手もいる。ケイソン・ウォレスにアイザイア・ジョーはまだまだ成長を続けているし、ハーテンシュタインはスティーブン・アダムズ以降このチームの泣きどころだったタフに戦えるビッグマンだ。

昨シーズンに西カンファレンス1位になったサンダーは、既存の選手の成長も見込める上に補強もハマり、今シーズンは堂々の優勝候補となる。経験不足が否めないだけに失敗するかもしれないが、そうだとしても必要な変化を施してまた次のチャレンジに向かえばいい。

レブロン・ジェームズとステフィン・カリーを筆頭にこの10年のNBAを引っ張って来たスター選手たちが老いていく中、サンダーは新たな時代の到来を予感させる。