文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

ギャレット不在の時間、チームに推進力を与える働き

栃木ブレックスとの地区首位決戦第2ラウンド、アルバルク東京は89-73で勝利し、逆転負けを喫した第1戦のリベンジを果たした。

この第2戦、第1クォーターは18-19と点差が付かなかったが、内容で見るべきものがあったのは栃木の側だった。好調のディアンテ・ギャレットが果敢なドライブから得点を重ねていたものの、A東京の18点のうち実に14点がギャレットによるもの。ギャレット依存はA東京にとっては『危険信号』である。

一方の栃木は田臥勇太がキレのある動きでマッチアップする正中岳城を手玉に取り、そこからパスを散らして多彩な攻撃を演出。先発全員を含む8選手が得点を挙げていた。

ところが第2クォーター以降、A東京は持ち直す。ハイペースに得点を重ねたギャレットが第2クォーターは2分47秒のみの出場、第3クォーターは全休となったが、代わりにチームに推進力を与えたのが田中大貴だ。

試合後、この起用法について田中が明かしてくれた。「今節は第1クォーター早めの段階で自分がベンチに下がるとヘッドコーチと話していました。その代わり第2クォーターは長い時間出ると。昨日は最後どうしてもディアンテばかりになってしまったので、自分がやる時は自分がと、バランスをうまく取るように。そこはヘッドコーチからの指示もありましたし、自分でも意識しました」

田中のプレーにはメリハリがあった。ギャレットがいる時はボールを預けてサポートに回り、いない時は自らが積極的にアタックして、そこからオフェンスに流れを生み出していく。

「意識はしていないですけど、今日に限っては明らかにディアンテのほうが良いリズムで、得点も取っていましたし、気持ち良くやれていたので。彼にやらせたほうがいいという判断をしました」と田中は言う。

メリハリの利いたオフェンスで栃木の堅守を攻略

ギャレット中心の時間帯は圧倒的な『個』で、そして田中がリードする時間帯は巧みな『組織』で。メリハリの利いた2種類のオフェンスが栃木の堅守を崩すきっかけになった。もっとも、田中はこの試合の勝因を「ディフェンスですね。前半こそやられた部分が大きかったですけど、後半はうまく修正してやれました」と語る。

オフェンスについては「ディアンテが序盤から積極的に点数を取ってくれたりしたのと、後半は正中さんがつないでくれたりだったりとか。それぞれがしっかり自分の仕事をしてこの結果がついてきたと思います。自分以外は(笑)」と自虐。

田中は8アシストを記録したものの、フィールドゴールは13本中2本の6得点、フリーのレイアップを落とすなど『らしくない』出来だった。8アシストという数字についても「リングにアタックした結果です。そこだけが今日は良かったんじゃないですか」と、やはり満足にはほど遠い様子だった。

それでもアグレッシブな姿勢を出せたことは収穫だ。「最後はフィニッシュが甘くて足を引っ張ってしまった部分がありますけど、それでも40分間アタックする姿勢を失わずにやろうと思っていました。新しく入ってきたジェフ(エアーズ)も『常にアグレッシブにやってくれ』と言ってくるので、それは残りの試合も続けていきたいです。そしてフィニッシュが決まればもっと良くなると思います」

「起きたことは仕方なくて、次にどうするかが大事」

今後もライバルである栃木との対戦は続く。今は勝ったり負けたりの好勝負を演じているが、チームとしてはこの状態から抜け出し、栃木の上に立ちたいところ。そのために必要なのは何かと質問すると、田中はしばし考え込んだ後にこう答えた。

「まず今日みたいに40分間リバウンドだったりディフェンスだったりを徹底することが大事だと思います。今日の試合は結構いい例で、前半は競っていたとしても気持ちを切らさずにずっと40分でやり続ければ、こういう結果になると思います。これに『自分がもっとしっかりプレーできていれば』と考えると、全然やれると思うので」

シーズンの佳境に入った時期に外国籍選手2人を入れ替えるという荒療治を行ったA東京だが、苦しい時期を乗り越えつつあるようだ。田中は言う。「いろんなことが起きて安定しない時期がありましたけど、ようやくこうやって新しい選手2人が入って良い形で勝つことができました。レギュラーシーズンはまだ試合があるので、そこでお互いもっとコミュニケーションを取って成長していきたいです」

ジェフ・エアーズとトレント・プレイステッドの2人について田中はポジティブな印象を語る。「新しい2人は良いものをチームに与えてくれています。意見をどんどん言いますし、ジェフはNBAでチャンピオンリングを持っていて、優勝するために何が必要かを分かっている選手だと思うので、それはすごく心強いです。チームが本当に良い雰囲気になってきています」

「最初のメンバーで1年間やれれば、それに越したことはないんですけど、こういうことが起こり得る世界ですし、起きたことは仕方なくて、次にどうするかが大事だと思うので。前だけを見てやっていきたいと思います」

最後に締めてもらおうと「では、良い感触を得られていますね」と言葉をかけると、「チームは得られていると思います。自分はちょっと微妙です」と半笑いの答えが返って来た。勝ってもなお『13分の2』が引っかかっていたのだろう。そんな田中の月曜ナイトゲームだった。