黒田捷稀

「このまま神奈川に帰れるのか!?」38点差から猛反撃

インターハイを制した東山が大会初戦で対戦したのは神奈川県の桐光学園だった。瀬川琉久やカンダ・マビカ・サロモンが力強いプレーを見せ、第1クォーターを33-10、第2クォーターを27-12と圧倒し、前半だけで勝負を決めてしまう。桐光学園は前日の初戦で明徳義塾を破った勢いに乗りたかったが、東山の勢いに出だしから圧倒され、立ち直るきっかけをつかめなかった。

38点差で迎えたハーフタイム、髙橋正幸ヘッドコーチから「このまま神奈川に帰れるのか!?」と檄を飛ばされた桐光学園の選手たちは、パニックに陥った頭を落ち着かせ、東山との対戦に備えて準備してきたオフェンスとディフェンスを出し始める。すでに勝敗はほぼ決していたが、それはプライドの問題だった。

ベンチからの出場だった黒田捷稀がメインのポイントガードとなり、サイズのある他の4人を生かすことで、桐光学園は自分たちのバスケを取り戻す。ディフェンスではサイズを生かして1対1をしっかり守り、走る展開に持ち込んではミスマッチを使って効率良く得点を重ねていく。このバスケが機能した第3クォーターは30-21と東山を上回り、優位は第4クォーターも続いた。東山は大量リードをキープしていたものの、桐光学園の勢いに押されたままで主力を下げるに下げられず、それでも桐光学園に押されることになった。

後半だけに限れば61-40と東山を大きく上回り、意地を見せた桐光学園。「ハーフタイムにみんなで『爪痕を残してやろう』と気持ちを入れ直しました。後半は良いプレーができたのですが、やっぱりそれが最初から出せていれば……と思ってしまいます」

そう語るのはチームを立て直す司令塔ぶりを見せた黒田だ。「ウチはもともと立ち上がりが悪いのに、相手が東山とあって自分たちから勝手に萎縮してしまいました。相手のピックにブリッツしようとか決めていたディフェンスがあったのですが、練習してきたことが全然出せずに、そこからどんどん崩れてしまって。あそこでちゃんとブリッツして、リバウンドを取っていれば、もっと良い試合ができたと思います」

桐光学園

「チームみんなで反省して、次に生かせるように」

ディフェンスが機能すればオフェンスにもリズムが生まれる。高さの優位を生かしてミスマッチを突く黒田のプレーメークは東山を相手にしても威力を発揮していた。「特に神奈川だと対戦相手がみんな小さいので、予選の時からミスマッチを見逃さないようにしていますし、チーム全体でも意識するようにしています」

自分たちの武器が通用することは分かった。それが大会最終日に頂点に立つ東山だったことは自信になるだろうが、それ以上に「前半なぜやれなかったのか」の念に桐光学園の選手たちは苛まれているだろう。

黒田は言う。「立ち上がりの悪さを解消するために、最初から100%の力を出すこと。やっぱりディフェンスからですね。僕たちは堅守速攻のチームなのに100点取られてしまったので。自分たちの良さを最初から出してしっかり守って、リバウンドから速攻に繋げられるように。今回のミスをチームみんなで反省して、次に生かせるようにします」

今回のミスで手痛い代償を支払うことにはなったが、得られた教訓は小さくない。その学びを実際のバスケに反映させることができれば、桐光学園は大きく飛躍することもできるはずだ。