ラウリ・マルカネン

ジャズの再建が一歩前進、注目株が移籍市場から消える

現地8月7日、ラウリ・マルカネンはジャズと5年総額2億3800万ドル(約360億円)の延長契約に合意した。実際にはブルズ時代に結んだ4年契約の最終年となる2024-25シーズンの年俸1800万ドル(約27億円)を4200万ドル(約63億円)へと増額した上で、2025-26シーズンから4年1960万ドル(約300億円)の新契約を結ぶ。

2017年の1巡目7位指名を受けたブルズでのマルカネンは、ルーキーイヤーから主力として活躍したものの、その後はケガやシュートスランプに苦しみ、勝てないチームの一貫しない采配にも翻弄されて輝きを失った。4年目のシーズンを終えた2021年オフにキャバリアーズに移籍して環境を変えたことで復調したが、ここではロールプレーヤーを演じることになった。

彼のキャリアが上昇気流に乗ったのは、キャブズを1年で離れてジャズに加入した2022年からだ。2022-23シーズンには25.6得点、8.6リバウンドを記録。昨シーズンも23.2得点、8.2リバウンドと結果を出した。何よりも再建に舵を切ったジャズでエースを託されたことで、彼の潜在能力が一気に引き出された。

27歳でこれからキャリアの全盛期を迎えるマルカネンは、契約更新の時期とあって移籍市場の注目株となった。中でもステフィン・カリーが元気なうちにもう一つNBA優勝のタイトルが欲しいウォリアーズはマルカネンの獲得に大いに関心を持っていた。しかし、ジャズはウォリアーズが到底受け入れられない条件しか提示せず、結局はマルカネンとの契約延長を選んだ。

マルカネン自身は昨シーズン終了の時点で「ジャズに残りたい」と明言。所属チームへの愛情を語るのが単なるリップサービスの例は多いが、マルカネンはここまでのキャリアで『自分の良さが生きないチーム』で成功はかなわないことを知っている。昨シーズン途中にジャズが主力3人(ケリー・オリニクとオチャイ・アバジ、シモーネ・フォンテッキオ)を指名権とトレードして、『勝たなくていい』という態度をあからさまに示した時には「僕には理解できない」とフロントの方針に異を唱えたが、その後は「NBAのビジネスは理解している。僕はこの状況を自分自身が大きく成長するためのチャンスだととらえたい」とジャズへの忠誠を示した。

今回の契約延長で大きな意味を持つのは、その日付けだ。新たな契約を結んだ選手は、6カ月間はトレードができない。8月6日に新契約を結べば、そのちょうど6カ月後が来シーズンのトレードデッドラインとなる来年2月6日となり、ジャズはここで彼をトレードする選択肢を持つことができた。それが1日遅れの8月7日になったのは、「クラブの思惑次第でトレードされたくない」というマルカネンの意向だろう。契約に縛られて自分の行き先を選べないのは同じでも、少なくとも新シーズンに移籍することはなくなり、彼は落ち着いて自分の成長にフォーカスできる。

母国フィンランドに滞在しているマルカネンは『ESPN』の取材に応じ「ホッとしている。これでバスケに集中できるからね」と語った。「ジャズは居心地が良いし、成長するのに最適な場所なんだ。フロントが僕を選手として、人間として成長させ、チームを強くしてくれると信じている」

しかし、ジャズはいまだ再建中のチームであり、来年のドラフトが『豊作』であること、指名権が11位以下になればサンダーに譲渡しなければならない事情を考えると、新シーズンは勝ちに行かないだろう。マルカネンが自分の成長にフォーカスしているとしても、勝利を狙おうとしないチームに居続ける我慢にはいずれ限界が来る。それと同時に、今回の契約延長はマルカネンをエースに据えたジャズが再建のスピードを加速させる可能性を高めたとも言える。少なくともジャズの将来は、これでまた一つ明るい方向に進んだと言えるだろう。