文=丸山素行 写真=鈴木栄一、B.LEAGUE

「チーム全員が最後まで集中力を切らさずにやれた結果」

田臥勇太は言わずと知れた日本人初のNBAプレーヤーで、日本バスケットボール界のパイオニアだ。NBAの舞台に立ってから13年の月日が流れ、ベテランの域に達した田臥だが、現在もその輝きは失われていない。

東地区首位を走る栃木ブレックスと、1ゲーム差でそれを追う2位アルバルク東京との天王山第1戦、栃木は終始リードを許す苦しい展開となったが、終盤に追いつき逆転勝利を収めた。

その逆転劇を演出したのが田臥だった。最終クォーター残り5分、田臥のジャンプシュートで同点に追いつき、直後のディフェンスでパスカットからレイアップを決めて、第1クォーター以来となるリードを奪う。さらに田臥はそこから2本連続でスティールを記録しそれを得点に結びつけA東京に引導を渡した。

田臥は試合をこう振り返る。「タフな試合になるということは分かっていたことなので、しっかりと前回の試合を反省しながら、今日どう戦えるかというのを考えチームとして挑みました」

前回の対戦(2月22日)では外国籍選手を2人欠くA東京を相手に大苦戦し、ライアン・ロシターの劇的な3ポイントシュートで辛くも勝利した。新たな外国籍選手が2人加わったA東京との対戦について「この前の試合とは全く違う試合だと思って挑んだ」と話す。

ヘッドコーチのトーマス・ウィスマンは「ディフェンス」を勝因に挙げた。栃木はBリーグで唯一失点を60点台に抑えるチームだが、最近の試合では失点の多さが目立った。田臥はその反省を生かせたことが今日の結果に繋がったと言う。

「ここ何試合か失点が非常に多くて、目指すバスケットができていないことが反省点でした。特に上位のチームを相手にした時に、どれだけディフェンスで戦えるかというのが自分たちにとってはチャレンジでした。40分間いかにタフショットを打たせられるかという部分で、チーム全員が最後まで集中力を切らさずにやれた結果だと思います」

勝利への執念が生み出した田臥の雄叫び

最終クォーターで逆転のレイアップを決めたシーン、普段は冷静な田臥が雄叫びを上げ全身で喜びを表現した。そのことについて話を聞くと、「ああいうのは会場の雰囲気だったり試合展開で自然に出るものなので」と淡々と振り返った。印象的なスティールについても「自分のスティールに関してはそれはそれで、チームディフェンスの結果だと思います」とあくまでチームディフェンスの産物と強調する。

「会場の雰囲気」という言葉にも表れるように、代々木第二体育館は立ち見客も出るたくさんの観客で埋め尽くされた。田臥はこうした環境でプレーができる喜びを噛みしめる。

「アウェーですけど、お客さんがたくさん入って満員の中でやれるっていうのは選手としてうれしいです。こういう試合が展開できるように、自分たちもそうだし、全チームが意識してやっていけたらと思います」

強固な守備で勝利を手にした栃木だが、田臥はまだまだ向上できると伸びしろを探す。

「試合は勝ちに繋がりましたけど、まだまだボールマンだったり、ローテーションだったり、その後のリバウンドだったり、シンプルなところをいかにやり続けられるかというのはもっと良くできると思います。判断する部分だったり良くしていける部分はありますので、しっかり試合を振り返って次に繋げていきたいです」

いくつ勝利を積み上げても、仮に完璧なパフォーマンスができたとしても、田臥が満足する日は来ないだろう。だがこの田臥のストイックさこそ栃木が首位に立つ理由であり、いつまでも第一線を走り続けることができる秘訣なのだ。