タイアス・ジョーンズ

「僕は自分を先発で出るべき選手だと思ってきた」

タイアス・ジョーンズはサンズと年俸300万ドル(約4億5000万円)の1年契約を結んだ。ティンバーウルブズとグリズリーズで過ごした8シーズンは控えポイントガードで、堅実なプレーメークで大きな波がなくオフェンスを組み立てられる司令塔ではあったが、得点力がキャリア平均7.4得点では物足りない。グリズリーズではジャ・モラントに続く2番手で、注目を浴びない立場に甘んじた。

それが一昨シーズン、モラントが不祥事で長期出場停止となったことで彼の才能が注目され、昨シーズンにはウィザーズで66試合すべてに先発出場。チームは全く勝てなかったが、彼の能力はついに陽の目を見ることになった。7.3アシストに対してターンオーバーは1.0。安定したプレーメークの指標となる『AST/TO』は7.3で、これで5シーズン連続でリーグトップとなった。

「僕は自分を先発で出るべき選手だと思ってきたけど、何年もその役割に恵まれなかった。チャンスを与えてくれたウィザーズには感謝しているし、そのチャンスを生かしてキャリアベストのシーズンを送れたことに満足している」と彼は語っている。

そして今オフ、彼はフリーエージェントとなった。それまで結んでいたのは、2022年にグリズリーズと結んだ2年2900万ドル(約45億円)で、結果を出してフリーエージェントになる以上は、さらなる高額契約を得ることが期待されていた。しかし、物事は彼の望むようには進まなかった。セカンドエプロンのルールが導入されて、どのチームも補強に消極的な市場で、彼に良いオファーは届かなかった。結局、彼が選んだのはルーキー契約より多少マシなだけの1年契約で、この結果は彼にとって失望でしかない。

一方、ベテラン最低年俸でしか補強の余地がなかったサンズにとっては望外の補強となった。昨シーズンはポイントガード不在で、デビン・ブッカーにブラッドリー・ビール、ケビン・デュラントの『ビッグ3』の爆発力を生かせず。特にブッカーにプレーメークを託したのは悪手で、今オリンピックでスコアリングに集中する彼の素晴らしいパフォーマンスを見ると、その思いが蘇る。昨シーズンのサンズを率いたフランク・ボーゲルは、ポイントガードの補強をフロントに訴えたが実現しなかった。ジョーンズはまさに、クリス・ポール退団でチーム内外で待望された正統派ポイントガードとなる。

それでもジョーンズがすべてを解決できるわけではない。ジョーンズには2つの弱点があり、一つは得点力を欠くこと。こちらは『ビッグ3』を生かすプレーメークをしてくれれば何の問題もないが、もう一つのサイズ不足によるディフェンスの弱さは、サンズにとって新たな足枷になるだろう。

ジョーンズを先発に据えれば、タフなディフェンスに定評のあるグレイソン・アレンがベンチに回ることになる。ブッカーもビールも身体を張ってディフェンスのできる選手ではないし、それでオフェンスに力が回らなくなるのはマイナスだ。ジョーンズ、ビール、ブッカー、デュラント、そしてユスフ・ヌルキッチのラインナップでは、デュラントがディフェンスとリバウンドで無用に消耗した昨シーズンの失敗をさらにひどくすることになりかねない。アレンかロイス・オニールを起用すればディフェンスはマシになるが、ビールをシックスマンで起用するのだとしたら、ハレーションは小さくないだろう。

ただ、昨シーズンのように駒不足では打つ手も打てない。今回はすでにモンテ・モリスを獲得しており、そこにジョーンズが加わってポイントガードは大きく強化された。新たな指揮官、マイク・ブーデンフォルツァーがこの手駒からベストな組み合わせを見いだせば、サンズは昨シーズンとは全く違う戦いぶりを見せるはずだ。

ジョーンズにとっては市場に振り回されての不本意な1年契約を結ぶことになったが、『勝てる戦力を持ったチーム』でメインのポイントガードを務める機会を得たと言える。自分の実力を世に示し、来年オフに大きな契約を勝ち取れるかどうか、勝負のシーズンとなる。