ビクター・ウェンバニャマ

制空権を支配する驚異のパフォーマンスを見せる

ビクター・ウェンバニャマは今大会のバスケットボール競技で最大の注目を集める選手の一人になる。開催国フランスはパリオリンピック初戦でブラジルと対戦。ウェンバニャマがゲーム最多の19得点、こちらも最多となる9リバウンドと3ブロックでフランスを78-66の勝利に導いた。

第1クォーターはチームとして攻守にまとまり、効率の良いプレー判断を続けてフィールドゴール13本中8本成功、3ポイントシュートも当たったブラジルが23-15で先行する。ウェンバニャマは無用のファウルをせず、それでも常にコンタクトするブラジルの粘り強いディフェンスにリズムをつかむのに苦労したが、それでも制空権では圧倒的に優位にあった。

開始5分すぎ、ニコラス・バトゥームの3ポイントシュートがリングに嫌われたオフェンスリバウンドを取らせまいと、ブラジルは3人がゴール下に集まってウェンバニャマの動きを封じる。それでも彼は長い腕を伸ばしてボールに触れ、タップで押し込み損ねたシュートのこぼれ球を自ら拾い、最後はファウルを受けながらゴール下を決めてバスケット・カウントをもぎ取った。ボールがリムの左右に飛び出しても、すべて彼のリーチ範囲内。ウェンバニャマが異次元の能力をオリンピックの舞台で示した瞬間だった。

第2クォーターの立ち上がりに0-4のランを浴びて最大12点のビハインドを背負ったフランスだが、ここでタイムアウトを取って立ち直る。ウェンバニャマとバトゥームの連続得点で追い上げ、残り1分半にウェンバニャマのダンクで同点に。39-36と逆転して前半を終えると、第3クォーターにリードを2桁まで広げ、最後まで危なげない試合運びで勝利を収めた。

チームに勢いが出た後半、ウェンバニャマは前半のように個人で強引に攻めるのを控え、ディフェンスでチームに貢献。見せ場は減ったが、これでチームの攻守のバランスは向上した。そして第4クォーター残り1分には豪快なアリウープダンクを叩き込み、フランスの勝利を決定付けている。

試合後のウェンバニャマは「2万7000人もの観客が僕らを応援する、そのホームの力は過小評価できない。これは初めての経験だけど、信じられない力を与えてくれる。本当にファンが6人目の選手として戦ってくれているみたいだ」とファンに感謝し、「良いプレーをしたブラジルに対し、僕らも上手く対応できた。できる限りのことをやって初戦に勝てたけど、まだまだできることは多い」と語った。

ヘッドコーチのヴァンサン・コレットはウェンバニャマのパフォーマンスを称えつつも「バスケを知っている人は彼がまだ20歳なのを理解しているが、スポーツは好きでもバスケを知らない人はビクターがマイケル・ジョーダンのような存在だと思っている」と笑いつつも「時間が必要だ」と過度のプレッシャーを与えないように配慮した。

それでも、ウェンビーへの注目は今後高まっていく一方だろう。昨年のワールドカップは、ウェンバニャマは来るべきNBAデビューに備えて代表活動を辞退した。チームはまさかの1次リーグ敗退という結果に。この時は開幕戦でカナダに惨敗を喫したことが大きく響いただけに、今回の開幕戦での逆転勝利の意味は大きい。ウェンバニャマがいることで、チームは前向きで力強いムードになっている。自国開催のオリンピックで主役を演じる準備は整った。