不甲斐ない結果に終わった昨季「特別なシーズンだった」

厳しい戦いの連続だった昨シーズンを一字にするならばどんなものになるか。横浜ビー・コルセアーズの森井健太に問うと「苦」と答えた。もっともな字だ。2022-23シーズンにBリーグでは初めて勝ち越して(33勝27敗、中地区2位)、ポストシーズンではベスト4に進出と躍進したが、周囲の期待が高まる中で迎えた2023−24シーズンは中地区6位に沈む(24勝36敗)など、転じて失意の1年に終わってしまったからだ。

森井はチームに対しての大きな期待を感じて入った昨シーズンを「特別なシーズンだった」と振り返った。その期待に応えられなかったことが彼を含めたプロの面々にとってどれだけ歯がゆいものだったか、これは当事者である彼らにしか感じられないものだろう。

横浜BCは20日、2024−25の新体制発表会見を催した。その直後で個別の取材に応えてくれた森井は、苦しかった昨シーズンもまた自身とチームが前に進むための学びとなったと下を向かない姿勢で、話した。「苦しみから学ぶことも多かったと思いますし、そこから逃げずに戦ったという自負もあります。そこはいち選手としてもそうですし、人としても成長のできたシーズンになったと感じています」

反省はもちろん、今後への糧としていく。ただ今シーズン、チームの体制は大きく変わる。ヘッドコーチが青木勇人氏から現男子フィンランド代表指揮官のラッシ・トゥオビ氏へと変更となり、絶対的エースの河村勇輝がNBAグリズリーズとの『エグジビット10契約』締結によって離脱する。外国籍選手とアジア特別枠選手もすべて新規となる。

トゥオビHCはまだチームに合流しておらず、具体的にどのような戦術等を敷くのかは分かっていない。一方でクラブはチームを強豪となるための中長期的な骨子を表明している。競技の面で言えば、ボールも人も動く速い展開のオフェンスと、強度の高いディフェンスをもって戦い、そのスタイルに合う人材の多いヨーロッパ出身者ないしヨーロッパリーグの経験者を重点的に獲得していくという。

トゥオビHCとはまだ直接話してはいないとしながら、同氏の遂行しようとしているバスケットについて見聞きしたり、フィンランド代表の試合を見てイメージを頭の中で膨らませているという森井は、「アップテンポなバスケットと激しいディフェンスは正直、横浜のアイデンティティにしなきゃいけない。その形が出るとチームも会場も乗れる」と話した。

ポイントガードとしてチームを回す、激しいディフェンスをするといった、スタッツに表れなくともチームの勝敗に大きく関わるところへの自負は強い。しかし河村という得点源が不在となり、チーム全体でその穴を埋める必要がある中で、スタッツに表れるプレーぶりも必要だと森井は言う。

「勇輝がいない中で誰がきっかけ作りをするかというのを考えた時に、自分がボールを持つ時間も増えるだろうし、キーファー(ラベナ)もいますけど、2人でペイントをどう崩していくかっていうのはチームとしてはすごく大きなポイントになると思います。ペイントアタックを仕掛けるプレーは増やしていこうと考えていますし、コーチ陣ともそういった話はしているので、チャレンジにはなります」

交渉事なので多くは語らなかったものの、このオフ、森井が移籍をする可能性も口ぶりからは感じられた。ただ昨シーズンまで4年、横浜BCで良い波に乗ったことも荒波にさらされたこともあった中で、このチームでしか味わえないものがあると感じているからこそ、今シーズンも紺と赤のユニフォームを着、そして昨シーズンに引き続きチームのキャプテンを引き受ける。

現在28歳の森井は、自身が「30手前で身体も経験も一番良い時期」にあると自覚し「そういう(移籍)可能性もなくはなかった」としながら、2022-23のチャンピオンシップ(CS)でベスト4にまで勝ち進んだ体験を「横浜で、だからこそ感じられたモノ」とした。「そういった思いも含めて、やっぱりこのチームで勝ちたいというところが強く、キャプテンとしてもそうだし、いち選手としても自分が進化をしてチームを勝たせられるようにしていきたいなと思います」

河村から「横浜を頼みます」との連絡

20日の会見に集ったメディアの数は、10社に満たないほどと寂しさを感じさせるものだった。河村の離脱の影響は否めないし、彼の人気と力量が傑出ものだったことはチームも認めるところだ。森井にしても同じポジションで切磋琢磨してきた23歳が抜けることの意味の大きさは理解している。だからといって「勇輝がいなくなって横浜は厳しいよね」と言われるのは悔しい。

「勇輝が担っていた部分はすべては絶対できないと思うし、勇輝にしかできないプレーもあるんですけど、それでも自分らしさを失わずにチームを勝たせられるように、より進化した形を見せられるようにというのは、自分自身の大きなチャレンジです。横浜ビー・コルセアーズでCSに出て、優勝をするという、長期的なプランになるかもしれないですが、そういったことを意識して挑戦していきたいなと思っています」

河村のエグジビット10契約が決まったのは7月上旬だった。オフ期間に入って時間のたったそのタイミングでチームのエース司令塔が抜けることの影響の大きさは言わずもがなだ。責任感の強い河村もそこに対する申し訳なさは当然持っていたようで、森井も彼から電話を受けたという。

「勇輝からは、発表前でしたが『行きます』という電話を直接もらいました。一緒に長く、チームを強くするために戦った日々というのは僕自身にとってもすごく良い経験でしたし、勇輝としてもそういう思いを大切にしてくれていたからこそ連絡もくれたと思います」

森井はそう述べ、言葉を続ける。「勇輝はこれから日本を引っ張っていく、そんな選手だと思うので、すごく楽しみにしています。またどこかで一緒のチームになるかもしれないし、もしかしたらマッチアップするかもしれません。彼はみんなに夢を与えていますが、僕自身にも夢や目標を与えてくれるような選手で、良い関係性でやってこられました。彼は『横浜を頼みます』といったような話もしてくれましたし、僕もより責任感を持ってチームを勝たせられるようにしていきたいです」

取材をしたのは、練習で河村と激しく身体をぶつけ合ってきたたきがしら会館のコートだった。ここで彼とバチバチやりあっていたんですよねと差し向けると、森井は少しばかりの間を取ってから、笑顔でこう返した。

「……そうですね。勇輝がNBA選手になって『一番嫌な選手は誰でしたか』と聞かれたら『森井選手です』と言われるように、僕も頑張ります」

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