ジョーンズJr.を奪われたマブスが見事な方針転換
ルカ・ドンチッチとカイリー・アービングを軸としてNBAファイナル進出を果たしたマーベリックスにおける『第3の男』はデリック・ジョーンズJr.だった。それがクレイ・トンプソンに置き換わる。いやはや、NBAのフリーエージェント市場は誰にも予想ができない。
ジョーンズJr.は素晴らしい才能を持ちながら、それを安定して発揮できずにいた。ヒートで2ウェイ契約からローテーションに食い込み、その活躍から2020年オフにトレイルブレイザーズと2年1900万ドル(約29億円)の契約を結ぶも、その後は長いスランプに。この契約が切れた後はブルズと2年660万ドル(約10億円)、その2年目を破棄してマブスに来た昨年オフには270万ドル(約4億円)の1年契約と、結果を出せないことで彼の収入は右肩下がりとなっていた。
それでもマブスでは期待以上のパフォーマンスを見せる。フォワードの控えとして契約したはずの27歳が、シーズン序盤のうちに先発スモールフォワードに定着。ドンチッチとカイリーの分までディフェンスを負担することを厭わず、攻めに転じればテンポを上げるべく誰よりも早く正しいレーンを走る。レギュラーシーズン76試合、プレーオフで全22試合とケガなくコンスタントにプレーし、6.7得点、3.3リバウンドという数字では測れない貢献でマブスのNBAファイナル進出を支えた。
今オフを迎えるにあたり、マブスのニコ・ハリソンGMは「チームの核は変えたくない。基本的には同じ顔触れのチームで、レベルアップを図りたい」と語っていた。主力のほとんどは新シーズンの契約が保証されており、ジョーンズJr.の慰留に集中できるはずだったが、その大事な戦力はフリーエージェント市場が開くとほぼ同時にクリッパーズに持っていかれた。
クリッパーズは、フリーエージェントとなったポール・ジョージから「新しいチームに行く」と宣言されて数時間のうちに、ジョーンズJr.との契約をまとめた。『ESPN』によれば、3年3000万ドル(約36億円)での合意。これまで薄給に耐えてきたジョーンズJr.にとっては念願の大型契約だ。
ジョーンズJr.は最近になって、エージェントをリッチ・ポールに変更していた。レブロン・ジェームズのエージェントとして、レイカーズとの強固な繋がりで知られるが、クリッパーズとの関係も深い。ジョージとの再契約を追っていたはずのクリッパーズがほんのわずかな時間でジョーンズJr.獲得を決めた背景には、彼の影響力があるのだろう。ポール・ジョージのサイン&トレードを求めるウォリアーズの提案にクリッパーズは応じなかったが、その裏ではジョーンズJr.との交渉が進んでいたと思われる。
マブスは最優先のはずだったジョーンズJr.との再契約に失敗。ピストンズからクエンティン・グライムズ、またペリカンズのナジ・マーシャルとハードワークできる選手を獲得していたが、『ドンチッチとカイリーとの相性が良い』というジョーンズJr.の強みが失われてしまう。ここでマブスはクレイ獲得に向けてアクセルを踏み込む。すでにウォリアーズ残留の可能性は失われており、レイカーズとの競合となった。
クレイは長期契約を優先しており、レイカーズは4年契約を提示していた。マブスは3年契約しかオファーできなかったが、NBAファイナル進出を果たしたチームであることが決め手になったと『ESPN』は報じている。
3年5000万ドル(約75億円)という契約は、クレイの実績を考えれば格安と言っていいだろう。大ケガを負った後は下り坂で、昨シーズンはベンチスタートも経験したが、クレイがいまだリーグ屈指のシューターであることに変わりはない。ドンチッチをケアして外のクレイを空けるか、クレイをケアしてドンチッチにダブルチームを送らないか、という難しい判断に相手チームは迫られる。
クリッパーズはポール・ジョージを逃してから見事な方針転換を見せたが、マブスはそれ以上に見事な動きを見せた。ウォリアーズに築いた『王朝』が限界を迎えた今、そこから飛び出したクレイが全盛期のパフォーマンスを取り戻し、ドンチッチとカイリーと並ぶ『ビッグ3』になれるのか。新シーズンの大きな注目ポイントとなる。