カイリー・アービング

「良い試合になるだろうし、すごく楽しみでもある」

「僕らのゴールの前に、セルティックスが立ちはだかっている」とカイリー・アービングは言った。彼は2017年からの2シーズンをセルティックスで過ごした過去がある。コート上ではオールスター選手として活躍する一方で、様々なトラブルを巻き起こす2シーズンでもあった。レブロン・ジェームズから離れ、リーダーシップを発揮しようとセルティックスに移籍したのだが、むしろチーム内で孤立して常にフラストレーションを抱えているようだった。

そして、セルティックスのファンの前で「みんなが望んでくれるなら、僕は再契約をする。いつか僕の背番号11がこのアリーナに掲げられる日が来たら素晴らしい」と契約延長を約束したのを反故にして、2019年にフリーエージェントになるとすぐさまネッツと契約。「どのチームも検討の対象だったけど、ニュージャージー出身の僕にとってニューヨークは特別な場所だ」と彼は言い、ボストンのファンはこの『裏切り』に激怒した。

2020-21シーズンのプレーオフでネッツとセルティックスは対戦し、ボストンでのゲームとなった第3戦で猛烈なブーイングを浴びたカイリーは調子が上がらなかった。このボストン遠征を控えてカイリーは「人種差別やひどい言葉が出ないことを願う」とコメントしたが、セルティックスに在籍していた時期に人種差別を受けたことを示唆するような発言は、ファンの敵意を余計に買うだけだった。この時、ジェイレン・ブラウンは「プレーオフで個人的に有利になるために人種差別を持ち出してはいないか」と語ることで、カイリーを批判している。

TDガーデンの試合で誰よりも早くコートに来たかと思えばウォーミングアップではなくお香を焚いたり、コート中央のクラブロゴを踏み付けたりと、他にもカイリーにはボストンのファンの神経を逆なでする行為が多かった。その敵意は時間の経過とともに薄れていたが、マブスがNBAファイナル進出を決めた瞬間から、ボストンのメディアの関心はそちらに向き、それに煽られる形でファンの間で眠っていたカイリーへの敵意に再び火が付いた。

セルティックスの関係者は、ファンがどれだけカイリーを憎んでいるかを知っている。指揮官ジョー・マズーラは「カイリーはキャリアを通じて素晴らしい実績があり、今まさに絶好調だ。我々は高いレベルで彼を守れるよう準備をしなければならない」と言い、ベテランのアル・ホーフォードは「彼の去り方は理想的ではなかったけど、誰が相手だろうとNBAファイナルなんだからファンは盛り上がるし、大騒ぎになるのは当然だろうね」と語る。ファンがカイリーに敵意を向けることは避けられないと悟り、だからこそその敵意とは一線を引いてプレーに集中しようとしているような発言だ。

カイリーはセルティックスにいた頃、そして新型コロナウイルスと『Black Lives Matter』活動で落ち着きを失っていたネッツ時代とは違い、チームメートと良い関係を築き、プレーに集中している。NBAファイナルの相手が因縁のチームとファンであっても、動揺することはなさそうだ。

カイリーは全盛期のパフォーマンスを取り戻してTDガーデンに戻る。「僕は人生の大事な岐路に立っていて、過去のことにとらわれたりはしない。ボストンにいた頃は家族の死や様々な出来事で心の整理が付かなかったけど、今は自分の気持ちを率直に表現できる。僕にとってNBAファイナルで対戦するセルティックスは強敵であり、良きライバルでしかない。良い試合になるだろうし、すごく楽しみでもある。僕たちは最高のチームが相手でも勝てると思っているよ」

そしてマブスのリーダーの一人として、こう語った。「この瞬間を楽しもう」