長谷川技

「勝ちに貪欲なところは新しいチームになってもしっかりと引き継いでいきたい」

日本バスケットボール界を代表する偉大なスコアラーとして活躍した川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカスが、5月30日に引退試合を行なった。川崎のチームメートや元チームメート、日本代表時代の同僚など、ファージーカスに縁のある選手が多く集まったが、彼と最も多くの時間を過ごした1人が長谷川技だ。JBL時代の2012-13シーズンにファジーカスと一緒に東芝ブレイブサンダース(現川崎)に加入した長谷川は、12シーズンに渡る旅路を一緒に歩んできた。

盟友との別れについて長谷川はこのように語る。「12年間一緒に、優勝といった楽しい時、悔しい時も経験してきました。これまでのことを思い返すと寂しい気持ちはありますが、この12年間川崎でプレーして、川崎で現役生活を終えることがニックにとって最高の選択だったらうれしいと思います」

そして、特に印象に残っているファジーカスとの思い出を聞くと、「ここ最近でうれしかったことは、今年度の天皇杯の群馬(クレインサンダーズ)戦でコーナーから僕がシュートを決め、ニックと肩と肩をぶつけあうバンプをやったことです。今までやった記憶がなかったのでうれしかったです」と教えてくれた。

新シーズンの川崎はファジーカス以外にも過去5シーズンに渡ってゴール下の守護神として君臨していたジョーダン・ヒースも退団。同じく過去5シーズンに渡った指揮を執っていた佐藤賢次ヘッドコーチも退任し、元チェコ代表の指揮官だったロネン・ギンズブルグ新ヘッドコーチが就任する。川崎はずっとファジーカスを最大限に生かすことに注力したチームを作ってきたため、彼がいなくなったことでチームを大きく刷新するのは当然の流れだ。

それでも、すべてを変える必要はない。ファジーカスと一緒に積み上げてきた、継承すべき文化や伝統はある。この点について長谷川はこのように考えている。「ニックは非常に負けず嫌いで練習中、ゲーム形式で紅白戦をやったりして負けると『もう一本やりたい』とアピールをすることがありました。いつも練習熱心でしたし、勝ちに貪欲なところは新しいチームになってもしっかりと引き継いでいきたいと思います」

そして、リーグ随一の強豪としてタイトルを獲得していた時代を知るベテランとして、長谷川にはよりリーダーシップを発揮することも求められるだろう。しかし、これまでの控えめな言動と同じく、「『僕が引っ張らないといけない!』とは、ならないですね」と謙遜する。

また、「(新しい体制になっても)自分の立ち位置はそんなに変わらないと思います」と言う長谷川だが、「年下の(野﨑)零也、(飯田)遼と良い選手も入ってきているので、彼らを育てていけたら」とも言い、豊富な勝者の経験を還元し、若手の指南役を担うべき立場にいることは理解している。

ギンズブルグ体制の川崎がどんな陣容で、どんなバスケットボールをするのかはまだわからない。だが、堅実なディフェンスとコーナースリーを得意とする長谷川は、どんなスタイルにも適応できる。そしてファジーカスと共に川崎が作り上げた勝者の文化を熟知する数少ない選手として、コート内外における彼の重要性はより増していく。