群雄割拠のBリーグにおいて、3年連続ファイナル進出の快挙
琉球ゴールデンキングスは、チャンピオンシップ(CS)セミファイナルで千葉ジェッツと対戦。第1戦で33点差の大敗を喫した後、第2戦、第3戦を連勝する見事なカムバックでシリーズを突破し、広島ドラゴンフライズとのファイナルへ駒を進めた。
連覇を目指す琉球だが、ファイナルはこれで3年連続の出場。Bリーグは各チームの戦力差が年々縮まり、群雄割拠の時代へと突入しているため、CSで結果を残し続けることの難易度はリーグ創世記に比べると明らかに上がっている。だからこそ、琉球を3シーズン続けて頂上決戦に導いている、桶谷大ヘッドコーチの手腕は賞賛されるべきだ。
桶谷ヘッドコーチが琉球を率いるのは2度目。最初はbjリーグ創世記の2008-09年からの4シーズンで、その間に2度のリーグ優勝を達成した。その後、岩手ビッグブルズ、大阪エヴェッサ、仙台89ERSを経て2021-22シーズンから再び琉球の指揮官となった。2度目の就任当時、琉球は3回連続でCSセミファイナル進出と、リーグ屈指の強豪チームの地位を確立していた。一方で当時の桶谷ヘッドコーチはB2の仙台を、言い方は悪いがB1昇格に導けずにいた。
桶谷ヘッドコーチは琉球のチームカルチャー確立の立役者であり、ディフェンスとハードワークを基調とするスタイルに合致する人物であることは間違いない。それでも、Bリーグ誕生以降の大阪、仙台時代の実績面から言えば、この原点回帰に懐疑的な声が出てもおかしくなった。だが、就任1年目でいきなりのファイナル進出と大きな壁を乗り越えた。この年のファイナルでは宇都宮に敗れたが、昨年は千葉J相手に連勝で悲願のBリーグ王者の称号をもたらし、今年もファイナルへと辿りついた。今や彼の手腕に疑問符を投げかける人はいない。
ここ3シーズンの琉球のメンバーを見ると、リーグでも上位の選手層を誇っているが、傑出している訳ではない。例えば、琉球には過去のファイナル出場チームと比較しても富樫勇樹、比江島慎、田中大貴といった日本代表の主力となる選手は1人もいない。また、帰化枠やアジア枠が中心選手として30分以上プレーすることはなく、日本人3選手と外国籍2選手の組み合わせがメインオプションだ。
琉球が結果を残し続けられているのは、シンプルだがチーム力の高さに尽きる。そして千葉Jとのセミファイナルで逆転劇をもたらしたのは、この層の厚さだった。NBAが際たる例だが、ポストシーズンになるとレギュラーシーズンとは一変し、主力メンバーにプレータイムが大きく偏り、8人など限られたローテーションになることは珍しくない。それはBリーグにおいても同じ傾向にある。しかし、琉球はレギュラーシーズンと同じで1試合10名、11名とコートに立ち、タイムシェアを継続する。そして、スタッツを残す主力以外にもボールをシェアし、チームとして打つシュートを大切にしている。
この戦いを続けたからこそ、セミファイナルでは第2戦に小野寺祥太が3連続3ポイントシュート成功で勢いを与え、第3戦では牧隼利、松脇圭志が長距離砲を沈めてチームに流れをもたらした。
選手育成への確固たる考え「やっぱり試合に出た方が成長します」
まず、桶谷ヘッドコーチはお互いの手の内がより分かるCSにおいて、主力以外で活躍する『Xファクター』の存在をより重視する。「チームはスタートだけで戦っているわけではないです。出るメンバーがそれぞれの役割を果たすことがCSではより重要で、やっぱりXファクターが出てこないといけない。お互いに戦術、戦略が分かっている中、どこで点数を取るかと言ったら、言い方は悪いですけど相手が捨てているところで点数を取ることが必要です。そこで小野寺、牧にしても仕事をしてくれた。松脇もCSに入ってシュートタッチが良くなかった中、3ポイントを1本決めてくれて、チームは大きく盛り上がりました」
また、臨機応変な起用が求められる中でも「やっぱり30分を超えてくるとパフォーマンスは落ちるかなと思っています」と言い、タイムシェアを大切にしている。「もちろん試合展開によっては30分以上出さないといけない選手が生まれる状況はあります。勝負どころや流れが悪い時はコートに置きたい選手がいますが、マッチアップなどを見て休める時は休ませるようにしています」
さらに桶谷ヘッドコーチは、自身の起用スタイルを貫けるのはチームの一体感のおかげと感謝する。「プレータイムは短くても、その瞬間で必要になった時、レギュラーシーズンで選手が乗り気になるのは難しい時もあると思います。でもCSになった時、このチームは短い時間でも仕事をしたいと言ってくれる選手たちばかりです。みんな同じ考えて戦ってくれていて、短い時間でもみんなが『はい、行きます』と気持ちよくコートに入ってくれる。それが好循環を生みますし、このチームの強さ、CSで勝っていける理由になっていると思います」
そして、指揮官が大一番でもいつもと同じ選手起用を貫くのは、選手育成に対する譲れない信念があるからだ。「僕は試合でベンチ入りした全員を出したいです。やっぱり試合に出た方が成長します。メンタル的にも試合で1つのミスをした経験から、『何クソ』って練習ができると思います。僕らが戦術やスキルを教えたりするより、試合を経験させることが選手の成長に繋がります。流れが良い時にしか使えない選手もいたりして、そこはヘッドコーチの采配として一番難しい部分です。それでも、自分の中で、多くの選手を起用することには1つの信念を持ってやっています」
その人柄からか、桶谷ヘッドコーチは他チームのコーチ仲間との繋がりも深い。ファイナルでは、普段はライバルである彼らから以下のように思いを託されている。「日本人のコーチ陣から、セミファイナルになった時点で『残っている日本人のヘッドコーチは桶さんだけです。桶さんに全部かかっているんですよ』みたいな、なんかよくわからないプレッシャーをかけてくる人たちが多いです(笑)」
大一番でも文字通りチーム全員で戦う信念を貫くことで、桶谷ヘッドコーチは再び沖縄に歓喜を届けるつもりだ。
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