荒削りな若手が多い大阪で光る『円熟のゲームメイク』
今シーズン開幕前、大阪エヴェッサにとって元NBAのジョシュ・ハレルソンとともに補強の目玉となったのが木下博之の加入だった。非凡な得点力と、試合の流れを的確に読んでの巧みなゲームコントロールを持ち味とし、30代中盤となっても衰えを感じさせないプレーを見せる彼は、まだまだ荒削りな若手が多い大阪が待ち望んでいた、実力と経験ともに申し分ないベテランの司令塔である。
しかし、12月中旬に4試合を欠場。12月29日、30日と年内最後の連戦には出場したものの、年明けのオールジャパンに出場した後で再び離脱。対戦相手の違いなどもあり単純な比較はできないが、木下が欠場した試合の大阪は4勝7敗と負け越し。チーム一の経験を誇る司令塔の不在が、大きなダメージになっていることは明らかだった。
そんな中、2月18日の川崎ブレイブサンダース戦は、木下にとって2017年では初のBリーグの試合だったが、いきなり3ポイントシュート3本成功を含むフィールドゴール6本中6本成功で17得点の活躍。辻直人、ライアン・スパングラーと中心選手2人を欠くとはいえ、リーグ最高勝率の川崎相手に84-81と逆転勝利を収める立役者となり、復帰初戦でしっかりと存在感を示した。
この試合、木下は前半でファウル3つと、彼らしくないファウルトラブルに陥る。「審判の感覚と少し合わないところがありました。ただ、ファウルよりもパスが相手の手に当たっていたので、そこの感覚がズレていたのが気になりました」と振り返る。
6点リードで試合を折り返すも、第3クォーターに川崎の猛攻で逆転された時も内容はそこまで悪くなかったと冷静に見ていた。
「第3クォーターはファウルを相手より多く吹かれてしまい、それによるフリースローの差でやられていました。その点で第4クォーターはうまく戦えました。(劣勢の時に)やられてはいけないところ、自分たちの有利な点を再確認し、勝負どころの時間帯まで我慢してついていこうと話していました。テクニカルファウルからファジーカスがフリースローを決めた後の時間帯はとても大事でしたが、そこでみんなキレずに頑張れたところは良かったと思います」
この木下が語った大事な時間帯というのは、第3クォーター残り約3分で47-60となった場面だ。そして、大阪がここで踏ん張れたのは、直後に木下がアウトサイドシュート、フリースローによる連続4得点を挙げ、点差を一桁に戻したからこそ。
「復帰してこんなプレーかと思われたくない」
この後、木下は第4クォーターに13得点をマーク。つまり、この試合での17得点はすべて13点のリードを許した後に挙げたものなのだ。
「味方がうまくシュートを打てており、相手がそこをやられてはいけないと止めに入るとことで、僕自身にスペースができていました。そして自分のシュートが入っていたので、最後は行けるかなと感じていました。内、外とうまくバランスがとれていたと思います」と、後半の得点量産についてコメント。
チーム全体で3ポイントシュート20本中13本成功とシューター陣が好調だったことで、川崎の守備は彼らへの警戒を強めた。その隙を的確に突く状況判断の良さが光る活躍だった。
チーム最年長のベテランは「悪い時はどのように対処したらよいのか分からないという悩みを抱えている若い選手は、どのチームにもいると思います。そこで全部を教えるのではなく、ちょっとずつヒントを与えながら成長してもらうことを心がけています」と若手への助言について述べる。ただ、一人のプレーヤーとしてまだまだ若手に負けるつもりはない。
だからこそ、欠場中も「復帰してこんなプレーかと思われたくない」とハードなリハビリを実施。そして偶然にも37歳の誕生日となった復帰戦で、その健在ぶりを証明した。「誕生日に勝てて良かったです。そして、復帰してまた脚が痛くなるのではという不安はありましたが、それがなかったのは率直にうれしいです」
「川崎はフルメンバーではないですが、首位に立っているチームです。首位相手に逆転で勝てたことは自信になります。こういう経験を重ねていくことで、大舞台や競った展開でも戦える自信がついてくると思います。今日の試合はそういう意味でも良い経験になりました」
今回の勝利の意義をこう振り返る司令塔の復活は、シーズン終盤の浮上に向け大阪にとって何よりも大きなプラス材料になるだろう。