佐々宜央

文・写真=鈴木栄一

琉球ゴールデンキングスはシーズン中盤戦まで順調に白星を積み重ねていた。ところが12月に入ってチームを根底から揺るがすアクシデントが起こる。インサイドの柱であるジョシュ・スコットが12月26日の大阪エヴェッサ戦でシーズン絶望となる重傷を負ったのだ。当時はアイラ・ブラウンも故障離脱中で、ゴール下の守備に大きな不利を抱えたチームは1月下旬から5連敗を喫するなど苦しんだ。代表ブレークを前に最後の試合となる2月10日の千葉ジェッツ戦に勝利して連敗を止めた。この苦しい時期を、若き指揮官の佐々宜央はどう受け止めたのだろうか。

「もっと選手を信頼しなければいけなかった」

──ジョシュ・スコットの離脱を受け、チームはどのように変わりましたか?

スコット離脱の後、ディフェンスは完全にマイナスからのスタートとなりました。例えばゴール下にボールを入れられた際、誰がどこまで寄るのか、寄らないかなど組織的な部分をやり直さないといけない。またサイズが落ちた分、トラップディフェンスなどを新たに導入しました。

オフェンスについてですが、スコットの代わりに加入したKJ(ケビン・ジョーンズ)はどちらかというとジャンプシュートが得意な選手です。スコットのようにゴール下で泥臭くプレーするタイプではないので、チームとしても攻め方を変えていかないといけない。ジェフ・エアーズとあわせ外国籍選手のアウトサイドシュートを生かすために、逆に日本人がインサイドにもっと攻めていく必要も出ている。フリースローを増やせるかが課題になっています。

──インサイドの戦力が揃わない中での戦いは、やはり難しかったですか?

12月30日、31日の横浜ビー・コルセアーズ戦、1月5日、6日の大阪エヴェッサ戦はともに1勝1敗でした。選手たちは本当に頑張ってくれていたのに、自分が選手を乗せきれずに勝たせることができなかった。スコットの故障へのショックは大きくて、それでインタビューでも「状況は厳しい」とネガティブに聞こえることを言っていて、そうなると周りもダメだなという感じになってしまいます。これは反省していますし、選手たちには申し訳なかったです。

そういう良くないメンタルが原因で負けた象徴的な試合が1月23日の滋賀レイクスターズ戦でした。あの試合は、悪い意味でゾーンにはまってしまいました。その後のシーホース三河戦、京都ハンナリーズと接戦を落とす試合が続き、勝てそうで勝てないことでなおさらキツい。あの場面でこうしておけば、と一つの采配を後悔するような状況で、自分としても試されていると感じていました。

──戦力が揃わずに敗戦が続く中、代表ブレーク前の最後の試合でリーグ首位の千葉ジェッツに勝って連敗を止めました。

この千葉戦は自分の中で心構えが変わった2試合でした。スコット離脱から苦しい1カ月の間、一つのミスで選手を交代させてしまうなど、もっと選手を信頼しなければいけなかったです。この間、チームは負け越しましたけど、選手は恥じることのない頑張りを見せてくれていました。

あらためて1月から2月にかけては、ヘッドコーチは簡単な仕事ではない。チームを勝たせていくだけでなく、選手の持ち味を生かさなければいけない難しさを感じました。それだけに、千葉との2試合では勝つことはもちろん、どれだけ選手に迷わずプレーさせることができるのか、指揮官としての自分の力量が試されている気持ちで臨みました。勝ち負けだけでなく、選手の心も預かって戦っていかなければいけないと、より感じた1カ月でした。

佐々宜央

「先発はディフェンス力を重視したメンバーにしたい」

──チーム状況を考えれば1月と2月は黒星が先行しても仕方ない、そういう思考にはならなかったですか。

言い訳をしたくなる時もありました。ただ、常にファンが来てくれて会場が満員となっている中、そんな言い訳をするコーチの試合を見には行きたくない。それに選手もそういうコーチの下で、やりたくないです。だからこそ、自分の中でケガ人を言い訳にはしたくなかったです。

──試合中の佐々さんを見ていると、シーズン序盤は感情を意図的に出すような熱い振る舞いをしていたのが、この苦しい時期は冷静にやっている印象です。この変化は意識したものですか?

チームが勢いに乗っている時は、自分がエモーショナルな指導をするのは良かったと思います。ただ、黒星が先行したこの1カ月、自分の表情がこわばっている。繊細になりすぎて一つのミスに対して苛立ちが出てしまって、選手を信頼しきれていない雰囲気になっていました。それでもっと冷静にやった方がいいと思いました。

また、スカウティングから自分でやろうとしすぎたり、試合前の準備でも冷静になれていなかった。それを2月2日、3日の新潟アルビレックス戦で連敗した時に感じ、もっと客観的に、落ち着いて選手に任せようという気持ちになりました。これは自分にとって一つのターニングポイントでした。

──これからのレギュラーシーズン残り20試合の展望についても聞かせてください。並里成選手をいかにチームにフィットさせ、彼の持ち味を生かせるか。シーズン序盤から意識しているこの点について、現状はどのようにとらえていますか。

並里の身体能力は、日本人の司令塔の中ではずば抜けています。開幕から先発で起用していたのを一時期バックアップにしたのは、相手チームのスカウティングによる対策をうまく攻略できなかった時期でした。ただ、それは言い方を変えれば、僕が相手の仕掛けてきた並里対策に対応できていなかったです。

これから一番大事なのは、彼をどうイキイキとプレーさせるか。自分のやりたいバスケットボールをやろうとして選手の持ち味を消してしまっては、それはコーチのエゴになってしまいます。並里だけでなく、他の全員の選手に対して彼らがもっと持ち味を出せる戦術、戦略を考えていかなければいけない。その中でも最終的には、先発はディフェンス力を重視したメンバーにしていきたい思惑はあります。

佐々宜央

「張り詰めた中でどれだけのプレーができるのか」

──苦しい1カ月が終わり、今はどんな気持ちですか。

この1カ月、やはり自分の不甲斐なさ、力のなさを痛感しました。コーチとしてもっと成長しないといけない。いろんなところでの選手との向き合い方、リーダーシップに関して、自分がどうするべきかを見つめ直す期間でした。

──では現状の戦力は、昨シーズンのチームと比較してどう変化していると感じますか。

KJとエアーズの2人はゴール下で点を取るのではなくシューター型で、外のシュート力は強化できています。ただその分、昨年のハッサン(アダムス)とヒルトン(アームストロング)と比べると、フリースローをもらったりインサイドから点を取る部分に課題が生まれている。この部分を改善するために、日本人選手に頑張ってもらいたいスタンスです。もっと日本人選手が中に攻めていく。また、ディフェンスに関しても、よりオールコートで当たっていったりとアグレッシブすることを考えていきたいです。

──西地区で、2位に3ゲーム差をつけてレギュラーシーズン残り20試合を迎えます。この状況をどう受け止めていますか。

昨シーズンと比較すると2位とのゲーム差もなく張り詰めた状況です。だからこそ、メンタルが張り詰めた中でどれだけのプレーができるのか。そこには僕が冷静に采配できるかも入ってきます。また、昨シーズンは終盤に東地区の強豪との対決が続きましたが、今年は同地区との対決となります。今のウチは西地区の相手に苦戦している部分があるので、そこでどう勝ち星を伸ばしていけるかです。