五輪初戦はアメリカ戦「自分たちが成長してきたモノ全てをぶつけるのにふさわしい、最高の相手」

女子バスケットボール代表は2月に行われたパリオリンピック最終予選(OQT)でスペイン、カナダの強豪を撃破し、パリへの切符をつかんだ。恩塚亨ヘッドコーチは、『勝てるところでしっかりと勝ち切る』、『常に停滞させない』という基本戦略の下、40分間を通してボールプッシュを続け、スピードを生かしたペイントアタックと3ポイントシュートを貫く戦い方の精度を着実に高めたことで、オリンピックへの道を切り拓いた。

3月に行われた抽選会でオリンピックのグループリーグは、アメリカ、ベルギー、ドイツと同組となった。対戦相手の研究に余念がない指揮官に、OQTへの振り返りと五輪に向けてどんなチーム作りを行なっていきたいのかを聞いた。

――五輪のグループリーグ決まり、あらためて今はどんな心境ですか。

オリンピックという特別な舞台で最高のパフォーマンスをして勝つことで大きなメッセージを届けることができると思います。そのための最善の努力をしたいと気持ちが昂っています。グループリーグは当たり前ですが、素直にどこも強いチームです。ただ、その中でも初戦のアメリカ戦は、東京オリンピック決勝以来の対戦で、3年間自分たちが成長してきたモノ全てをぶつけるのにふさわしい、最高の相手だと思っています。

――OQTの振り返りですが、会場の構造も影響したのか開催国ハンガリーとの試合は歓声が大きすぎて、選手が声で意思疎通を図れなかったことは大きな誤算だったと思います。それ以外に想定外のこと、明確な課題として露呈したものはありましたか。

どこまで言っていいのかと言えば難しいですが、改善しないといけないところはありました。例えば代表では、所属チームと違うことを選手たちがやらないといけないです。この習慣を変えるのは、すごく難しいところです。一度、どれくらいで習慣を変えることができるのか調べましたが、平均で66日かかるらしいです。この習慣を変えてオリンピックに臨むことが一つのポイントになると思います。

具体的に言うと、トランジションディフェンスにおいてタグアップ(オフェンスリバウンドに入る時、相手より外側に位置取ってマーク。これによりリバウンドが取れなくても、そのまま守備に移行できる)などをしないで漠然と戻ってしまうと、そのまま相手の勢いにやられてしまいます。無意識にやるべきことができるまでトレーニングする必要はあります。オリンピックの試合終盤の勝負どころで、無意識に合理的なプレーをできるようになる。そこにチャレンジしていきたいです。

――OQTの3試合目、カナダ戦ではインサイドの要である髙田真希選手がファウルアウトとプレータイムが大きく制限されました。これまで代表の大舞台でこういった事態はなかったと思います。それでもチームに動揺はなく、最後まで自分たちのプレーをやりきれた。そこはかなり大きな進歩と感じますか。

もちろん、そう思います。やり抜くという信念がチームのDNAにしっかり刻み込まれている感じがします。人間なので苦しい時に揺れることはありますが、しっかりといるべきところに戻ってくることができる。そこはOQTへの道のりの中で確かな手応えとして感じられました。

「流れの中で一番期待値の高いシュートを選択することにこだわっています」

――OQTで選んだ12名は、3試合を勝ち抜くために特化したメンバーだったと思います。それがオリンピックになると、金メダルを取るには6試合が必要で、さらに相手もどこになるか分からない。そうなると、編成もより柔軟性を持たせたり、プレータイムのシェアをより意識しますか。

ベースはそんなに変わることはないです。強みをいかに最大化して、相手の弱みにぶつけることができるかにこだわっています。例えば、パリの出場チームで日本がフィジカルで優位に立てる相手はいないと見ています。目指すのは自分たちの強みをぶつけることで、相手の弱みが出る場面を増やしていくこと。フルコートで仕掛ける戦いに持っていければ、単純に相手より速く長く動ける強みを出すことができます。自分たちの強みを発揮し続けることで、相手がどんどん弱みを出していかざるをえない。その噛み合わせを見つけていきたいと思います。

プレータイムに関しては、結局はチームの総合力でいかに勝っていくかになります。その中でタイムシェアが目的というより、選手に最高のパフォーマンスを出してもらうために逆算してプレータイムを考えるようにしています。過去の試合から、これくらいの時間なら一番良いパフォーマンスが出せる。これ以上、長くなると少し質が落ちてしまうというのは分析しています。

――日本の場合、クラッチタイムでこの選手にシュートを任すという明確な絶対的エースはいません。オリンピックでも試合ごとにタッチが良い選手がここ一番でシュートを打てばいいのか、それともエースは作った方が理想的なのか、どのように考えていますか。

結論から言うと決めない方がいいと思っています。クリエイトする役割、スクリーンをかける役割、シュートを打つ役割の選手というベースはありますが、そこに固執することはなく、流れの中で一番期待値の高いシュートを選択することにこだわっています。OQTで2ポイントの成功率は70%近くでしたが、これは点を取る役割はどの選手と限定せずに全員で攻めることができたからこそ。過去には、アタックするのはこの選手と役割が偏ったことで、難しいシュートでも打つ選択が増えてしまって2ポイントの成功率が20%台のこともありました。全員が狙っていく考え方になると思います。

――今の代表は全員が大きなプレッシャーのかかるしびれる場面でもシュートをちゅうちょなく打ち切る覚悟、タフさを備えていると言えますか。

そうですね。各選手のメンタルの強さに敬意を払っていますし、誰もがここ一番でシュートを打てるようにしていきたいです。結局、今はスカウティングがより進んで、一番期待値の低い選手にボールを回そうと相手もディフェンスをしてきます。それぞれが成長し、ベースの役割がある中でも、チームとして期待値の高いシュートをちゃんと打っていく。みんなが、シュートを打つ責任を担えるマインドセットで試合に臨むことが鍵になってきます。