ケリー・ウーブレイJr.

「勝っているチームに必要なピースになりたかった」

東カンファレンスの5位から7位は、マジック、ペイサーズ、セブンティシクサーズによる大混戦となっている。レギュラーシーズン残り2試合の時点で、セブンティシクサーズはマジックとの直接対決に125-113で勝利し、これで3チームが46勝35敗で並ぶこととなった。

ジョエル・エンビードが32得点13リバウンド7アシスト、タイリース・マクシーが28得点を記録。試合開始直後の数分を除けば常にシクサーズがリードする展開だったが、エンビードは前半残り2分にシュートを放った際、左膝を痛そうにする仕草を見せた。左膝の半月板を手術して復帰したばかりのエンビードに無理はさせられず、第4クォーターの出場は5分に留まった。マクシーも腰に痛みを抱えながらプレーしており、この試合ではルーズボールを追ってジェイレン・サッグスと正面衝突するアクシデントもあり、ファンは肝を冷やした。

それでもシクサーズはエンビード復帰前から続く7連勝中。エンビードが不在でマクシーも休みがちだった時期から現在まで、攻守に貢献が目立つのがケリー・ウーブレイJr.だ。彼は今、汚れ仕事もエースムーブもできるシクサーズのキープレイヤーとなっている。

3シーズン前はウォリアーズで長期離脱中のクレイ・トンプソンの穴を埋める働きを見せたウーブレイJr.だが、直近の2シーズンは再建中のホーネッツで目立たない存在だった。今シーズンにシクサーズに加わるも、開幕直後に自動車にはねられ戦線離脱。ひき逃げの犯人はいまだ捕まっていないが、ウーブレイJr.は「プライベートで人々の話題になるのが嫌だ」との理由で、この事故について語ることを避けている。事故で出遅れたものの、ケガが癒えてからは少しずつチームに馴染み、エンビードが離脱したのを機に得点面を補う働きを見せ始めた。

ウーブレイJr.はウィザーズでのルーキー時代から、攻守両面で力を発揮できる万能プレーヤーだったが、ケガがあったり今回のひき逃げのようなアクシデントに見舞われたり、ウォリアーズで素晴らしい結果を出したにもかかわらずチーム事情により良い契約を得られず再建チームに行かざるを得ないなど、なかなか噛み合わないキャリアを過ごしてきた。それでも彼は文句を言うのではなく「すべては自分次第なんだ」とのマインドセットを持つに至った。

「ディフェンスでもオフェンスでも、チームが必要なことは何でもする。それができる選手だという自負はあったけど、自分の立場が安定していないことでスタッツを意識してしまう。それは僕にとって良い結果を生まない。それを理解するまでに時間がかかった」

そんな自分を変えるためにも、彼はシクサーズを選んだと話す。「プレーオフに出る、そのためにはチームが勝たなければいけないし、そこに貢献できる選手にならなければいけない。勝てないチームで20得点しても意味はない。それより、勝っているチームに必要なピースになりたかった。試合ごとに役割が変わるのは大変だったけど、試合に出て勝利に貢献するのがプレーヤーにとっては一番なんだ。大変な時でも笑顔を絶やさずに努力を続けてきたつもりだよ」

サイズにも運動能力にも恵まれ、スキルもバスケIQもある。ウーブレイJr.の才能は明らかだが、『チームの勝利に貢献する』という指針が彼の中で固まったことが、キャリア9年目での飛躍を生んだ。

マジック戦の第4クォーター残り2分30秒、パオロ・バンケロがワイドオープンで3ポイントシュートを放とうとした瞬間に笛が鳴った。ジョナサン・アイザックをペイントエリアから押し出すボックスアウトでウーブレイJr.がオフェンスファウルを引き出しており、決まっていれば5点差で試合が分からなくなる3ポイントシュートを未然に防ぐとともに、フリースロー2本を得てマジックを突き放した。

このようにウーブレイJr.は21得点9リバウンドを記録した以外にも攻守両面で様々な仕事でシクサーズを支えている。どのシード順でプレーオフに進むにしても、そこではひたむきに戦うウーブレイJr.の姿が見られるはずだ。