アイザイア・トーマス

「僕はプレーヤーとしてまだ終わってはいない」

アイザイア・トーマスがサンズと10日間契約を結び、NBAに戻って来る。2011年のNBAドラフトで最後の60位で指名された選手でありながら、ルーキーイヤーからスコアラーとして活躍したトーマスは、キャリア7年目にはセルティックスのエースとして、175cmというサイズのなさをカバーする爆発的な加速と跳躍力、勝負強いフィニッシュを駆使してリーグ3位の平均28.9得点を記録した。

しかし、股関節のケガを機にキャリアは暗転する。2016-17シーズンに無理をしてプレーを続けたために痛みが悪化。セルティックスからトレードされた先のキャバリアーズとレイカーズでは満足なプレーができず、ここで契約が満了した後は短期契約で様々なチームを渡り歩くも、どのチームでも経験を買われて若いポイントガードのバックアップを務めることになり、股関節の痛みが続いていたこともあって結果は出せなかった。

ただ、彼には得点能力以外にも武器がある。ハードワークを厭わないバスケへの愛情と、困難にも笑顔で取り組む姿勢だ。小兵ガードとして成り上がるために必要だったこの要素は、NBAスターの座から転落した彼にも役立った。どのチームでも思うようなプレーはできなかったが、コーチやチームメートは必ず彼のバスケに取り組む姿勢を称賛している。ウィザーズで1シーズン彼と一緒だったブラッドリー・ビールは、今回の10日間契約を聞いて「IT(トーマス)は逆境を乗り越える男だ。バスケ選手としての彼を止め、目標の達成を妨げられるものは何もない」とコメントしている。

トーマスが最後にNBAの試合に出場したのはホーネッツに在籍していた2022年4月のことで、昨シーズンと今シーズンここまではNBAでのチャンスを得られなかった。結果が出なくても常に彼にはチャンスが与えられていたが、それが途切れたのは35歳という年齢のせいだろう。この間、Gリーグのチームでさえ若手を優先し、彼にはなかなか契約を提示しなかったという。

その彼にチャンスを与えたのはジャズ傘下のソルトレイクシティ・スターズだった。ジャズのトップはダニー・エインジ。かつてトーマスがセルティックスのエースだった時期の球団社長であり、股関節を痛めた彼の再起は難しいという非情な判断を下してトレードに出した男である。そのエインジがGリーグチームにトーマスの居場所を与え、トーマスは4試合でいずれも30得点超えの平均32.5得点を記録。この活躍がサンズとの契約に繋がった。

Gリーグで再起への重要な一歩を踏み出した時点で、トーマスは「僕は恵まれている」と彼らしいポジティブな言葉を語った。「僕は175cmしかないからチャンスは多くない。ケガを抱えていたらなおさらだ。チャンスをもらえてうれしい。僕はただ戦い続け、それを笑顔でやり抜く。ネバー・ギブアップのメンタリティを見せていきたい。僕はプレーヤーとしてまだ終わってはいない。少なくともあと何年かは自分の力を出せると思っているし、実際にそうなるよう努力し続けるよ」

サンズは『ビッグ3』で注目を集めて開幕を迎えたが、ここまで中位をさまよっている。スター選手が個人では結果を出せてもリーダーシップを発揮できず、指揮官フランク・ボーゲルもチームが前向きになるような雰囲気を作れなかった結果ではあるが、ここからポストシーズンに向けてチームの空気を一変させる何かが必要で、それをトーマスに求めた。

「ケガで自分ではどうにもならない時期が長かったし、あきらめたくなることもあった。でも辞めるのは簡単だ。良い時も悪い時も自分のやっていることを信じ、旅を楽しもうと思った。いろいろあったけど、今は痛みを感じることなくプレーできる。それは幸せなことだよ」

そう語るトーマスにとって、今回の10日間契約はゴールではない。指揮官ボーゲルは「彼がどれだけできるか試すためのもので、どれだけプレーするかは現時点では何とも言えない」と正直に語っている。サンズには生粋のポイントガードが不在だが、デビン・ブッカーにブラッドリー・ビール、ケビン・デュラントとプレーメークのできる選手は多く、彼らはすべて1試合30得点を奪う力がある。トーマスに求められるのは、逆境を楽しんで真剣勝負に笑顔で取り組むメンタリティをチームに注入することだ。