A東京のユースを選んだ理由「インターナショナルスクールに通いながら高いレベルでできる」
3月の下旬を迎え、いよいよ新学期まであとわずかとなった。4月から大学など新たなステージでバスケットボールを続けるU18世代の選手たちのさらなる成長が楽しみとなる中、同世代の選手たちよりも半年ほど早く新天地で奮闘しているのが、アルバルク東京U18に所属していた国定悠だ。
U15誕生時からA東京のユース組織で過ごした国定は183cmの司令塔としてU18チームでも主力を務めた。そして昨年の9月から、イギリスを代表する名門大学で、アカデミックの分野では世界最高峰の評価を得ているケンブリッジ大に進学した。同大のバスケットボール部に所属し、世界トップレベルでの文武両道を実践している。
「小6の時に友達に誘われてミニバスに入りました」とバスケットボールを始めたきっかけを語る国定は、どうせやるならプロを目指したいと高い意識を早くから持っていた。その中で、中学時にA東京U15へ入団した理由をこう振り返る。
「(中学校に進む際)できるだけ高いレベルでやりたい、中途半端ならあまりやる意味はないと思っていました。そうなるとBリーグのユースやクラブチーム、もしくはバスケットの強い中学に入るかの選択肢がありました。でも、それまでインターナショナルスクールに通っていたので、もし日本の一般的な中学校に進んだら、言葉の壁が少しはあって勉強面でも困ることがでてくると感じました。インターにそのまま進みながら、バスケができるユースの方が自分に合っている。そして、アルバルク東京は(スタッフの話を聞いて)成長に繋がる経験を多く積めると思って選びました」
大学バスケが盛んな国として真っ先に思い浮かぶのはアメリカであり、イギリスの大学でバスケが注目される学校は少ない。しかし、国定にとってバスケットボールだけが進学先を決める要素ではなく、あくまで文武両道が根幹にあった。「ケンブリッジだけではなく、いろいろな国の大学を受験しました。そしていろいろなオプションの中で様々な要素を比べると、ケンブリッジが最も両立できるかなと」
「フィジカルを向上させることができたら、いろいろな要素が上達しやすくなる」
また、彼はアメリカではなく、イギリスの大学だからこそプラスに働く部分もあると見ている。アメリカのNCAAは世界中からタレントが集まり、激しい競争が繰り広げられる。さらにNCAAは数前から、転校する場合は1年間出場できなかった制約がなくなったことにより、多くの選手たちが1年、もしくは2年で転校することが当たり前となり、毎年ロスターの半数近くが変わることも珍しくないプロと大差ない状況になった。
この環境で日本人選手が安定したプレータイムを得るのは、より厳しくなっている。だが、ケンブリッジ大なら、NCAAに比べるとチーム内での過酷な競争はない。国定は「そもそもアメリカと環境を比べても仕方ないですが」と前置きしつつ、「自分は最初から試合に出て経験を積めている。そこは大きいです」と、メリットを強調する。
ちなみにケンブリッジ大のバスケ部は、18歳から22歳までの若者というメンバー構成ではない。人生経験豊富なチームメートたちの存在は、大きな助けになっていると彼は語る。「プロを目指している人だけではなく、プロを目指していたけど違う道を選択した人。元プロで今は引退している30代後半の人も何人かいたりと、いろいろな経歴の選手たちが集まっています。僕が一番若いので、いろいろと助けてもらっている部分も大きいです。年上の人たちのサポートには感謝しています」
そしてプロ選手になるため、国定が特に意識しているのは次の要素だ。「得点力を高めることは絶対に必要です。そして、フィジカルを向上させることができたら、いろいろな要素が上達しやすくなります。また、アルバルクのプロ選手たちと一緒にワークアウトをして、常に仕事をちゃんとこなす。ブレないプレーができることをより大事にするようになりました」
国定はポイントガードだが得点力を重視しており、憧れの選手はNBA史上最も小さい得点王であるアレン・アイバーソンだ。非凡な得点力に加え、「周りよりも勝利への執念が強いと彼を見ていて感じました」というように、闘争心あふれるプレーに感銘を受けている。
目標はA東京とのプロ契約「これまでの恩返しをしたい気持ちは強いです」
ケンブリッジ大で学びながらプロバスケ選手を目指す国定のチャレンジは、最高レベルの文武両道だ。しかし、彼の周りにはそれが普通と考えている人材が数多くいる。ケンブリッジ大は約30の大学群(カレッジ)によって構成されているが、「自分の入っているカレッジは特にスポーツ施設が多くて、オリンピック選手にイギリス代表のスキー選手など、いろいろな競技のアスリートがいます。みんな文武両道は当たり前のようにできていて、僕は簡単にできていないですが、周りを見るとモチベーションが上がります」と、刺激を受けている。
そして、学業との両立には「やる気は日によって変わるのでタイムマネジメントが大事です。ちゃんとスケジュールを組んで、自分がやることをシンプルに決めることです」と語る。さらに次のような柔軟性を持たせることも大切にしている。「スケジュールには、ある程度の余白を持たせています。それによって多少、スケジュール通りに行かなくても、その日の内にやるべきことをできるようにする。そして、リラックスする時間に加え、家族や友達としゃべったり、人とコミュニケーションを取る時間もしっかり取っています」
まだ大学生活はスタートしたばかりだが、今の国定には確固たる目標がある。まず、3年間でしっかりと学士号を取得する(イギリスの学士過程は、日本の4年制に対して3年制)。そして、卒業後はプロバスケットボール選手になること。ビジネスパーソンとしての活動はバスケ選手を引退した後で良いという考えだ。もちろん、A東京のユース出身者としてトップチームに加入し、2025年秋に開業予定となっているA東京の新たなアリーナのコートに立つのが理想だ。そこにこだわるのは、チームへの感謝と愛着がある。
「一期生である僕がトップチームとプロ契約を結べたらユースの評価がさらに高まると思います。ユースは自分の目標を叶えるためにいろいろなサポートをしてくれました。例えばコーチは選手を信頼して、問題に直面しても簡単に答えを教えないなど、僕たちが自分で答えを見つけるのを待ってくれていました。そのおかげで自分は成長できましたし、これまでの恩返しをしたい気持ちは強いです」
日本各地の高校バスケットボール部が、ユース世代の選手育成の要となっているのは今も昔も変わらない。だが、Bリーグのユースが誕生したからこそ、国定のようなこれまでにないプロバスケ選手を目指す道のりが生まれた。今から3年後、Bプレミアにおいて、イギリス帰りの逆輸入選手として国定が躍動する姿を期待したい。