「小さなガードは多くのフィニッシュパターンが必要」
ナゲッツは昨シーズンのように西カンファレンスの首位を独走しているわけではないが、プレーオフになれば確実に結果を出す雰囲気を漂わせている。ニコラ・ヨキッチを中心とするスターターの5人は個人能力が高いだけでなく、5人が揃うことで弱点を補い合って長所だけを発揮する。選手層は課題だが、ここまでのシーズンでセカンドユニットで多少苦戦しても、最後にベストメンバーを送り出すことでクラッチタイムに無類の強さを発揮して勝利をモノにしてきた。
現地3月17日のマーベリックス戦も、13点ビハインドの残り6分50秒から猛烈な追い上げを見せる。試合を通してマブスはダニエル・ギャフォードにデレック・ライブリー二世、マキシ・クレーバーとビッグマンを代わる代わるヨキッチのマークに付け、常に全力のディフェンスでヨキッチを抑え込んでいた。そのディフェンスは継続していたのだが、ヨキッチを止めてもクラッチタイムのジャマール・マレーは理不尽なまでにシュートを決めてくる。ナゲッツは残り1分にヨキッチのポストアップで追い付き、残り27秒のマレーの3ポイントシュートで105-102と勝ち越した。
何度も何度も繰り返されてきたナゲッツの勝ちパターンが完璧に遂行される展開だったが、マブスはルカ・ドンチッチのディープスリーをねじ込んで再び同点とし、ナゲッツの攻めを耐えて残り5秒で最後のオフェンスを迎える。
タイムアウトでデザインした攻めは、ドンチッチのキャッチ&シュートで、ドンチッチにボールを預けられなければカイリー・アービングに託す、というもの。守備巧者のケンテイビアス・コールドウェル・ポープがベタリと貼り付くドンチッチにはパスが出せず、アーロン・ゴードンをスピードで振り切ったカイリーへとボールが渡る。ナゲッツはゴードンからヨキッチへとカイリーのマークを受け渡し、ヨキッチが腕を伸ばしながらプレッシャーをかけてカイリーをリムに近付かせなかった。
この対応は完璧なように見えたが、カイリーはそれを上回る。前には進めなくても右サイドから中央へと走りつつ、左手一本でスカイフックを放つ。ブザーとともにこれがネットに吸い込まれて、劇的なゲームウィナーとなった。
カイリーは試合後の会見で「あれはシュートアラウンドでいつも試しているシュートなんだ」と話す。「ヨキッチが迫っているのは感じ取っていて、瞬間的に左手は大きく空いていると思った。もう少しペイントに近付いて打ったつもりだったけど、後から映像を確認してみたらかなり遠かった。それでも誰も見ていないところでずっと練習し続けているスキルを信じて打つことができ、勝てたのはうれしいよ」
カイリーは、小さなガードとして得点にこだわる自分の姿勢について語った。「左でもシュートが打てるのは練習を積み重ねた成果だ。人生の大半を小さなガードとしてプレーしてきたから、多くのフィニッシュパターンが必要となる。僕が子供の頃から取り組んできたことだ」
王者相手に貴重な勝利を挙げたマブスはこれで39勝29敗。キングスとサンズとともに6位に位置している。「自分たちにどれだけのことができるのか、今日はそれを示せたと思う」とカイリーは言う。「僕たちは逆境を通じて成長してきた。仕事はまだ終わっていない。順位争いは熾烈だけど、毎日が成長のチャンスだし、この旅を楽しむチャンスだと思っている。最終的な目標は優勝だ。そのためにプレーしているんだ」