「この空気感はスポーツの1つの魅力でもあるので、僕は本当に大好きな雰囲気でした」

会場の観客は誰がヒーローかを分かっていた。

3月10日、千葉ジェッツは『EASL Final Four 2024』の決勝戦でソウルSKナイツと対戦し、終盤までリードチェンジを繰り返す接戦を72-69で制し、初代王者に輝いた。

千葉Jの1点リードで迎えた最終クォーター残り14秒、富樫勇樹がフリースローレーンに立った時にそれは起きた。『M-V-P!M-V-P!』。NBAなどでも時折発生するMVPチャントだった。富樫はこのシリアスな場面でしっかりと2本のフリースローを沈めて3点差にし、2点では間に合わない状況を作って栄光をつかみ取った。バスケットボールを国技とする、フィリピンのバスケ熱の高さが表れた瞬間だった。

富樫は言う。「(MVPコールは)聞こえていました。フリースローを打つ前に、多分1本目の後ぐらいから大きくなっていった気がするんですけど、2本目は外せないなと思いながら、ちょっと緊張しました(笑)。試合前もそうですが、ホテルでもそうだし、従業員の方もやっぱりバスケットが大好きなんだなっていうのをすごく実感しました。千葉Jファンからじゃなく、現地の人たちから言ってもらえるというのはこれ以上ないことだと思います。海外でこれだけホームを感じながらプレーできることはないので本当に幸せでした」

準決勝のニュータイペイキングス戦でゲームハイの28得点を挙げたこともあり、富樫は序盤から相手の徹底マークに苦しめられた。富樫も「本当にずっと3番の選手と追いかけっこをしていた」と振り返るように、チェ・ウォンヒョクに終始フェイスガードで守られた。183cmながらフットワークは軽く、ウイングスパンも長い。さらにフィジカルも強く、富樫のスピードを身体全身を使って封じていた。実際、第3クォーターまではフィールドゴール成功率30.8%で12得点、3ターンオーバーと、ウォンヒョクに守られていた印象のほうが強い。

それでも、ボール運びをゼイビア・クックスに任せ、よりオフボールの状態からボールを受けるなどアジャスト。そして、勝負強さを発揮して最終クォーターに12得点2アシストと圧倒した。富樫はこのマッチアップが自分の糧になると確信している。「試合中によく喋りましたが、彼のような気持ちのある選手と戦うことが僕の成長にも繋がると思いますし、本当に楽しく試合ができたと思います」

富樫は『EASL Final Four 2024』の2試合で平均26.0得点、6.0アシストを記録し、満場一致でMVPを受賞した。チームとしても個人としても最高の結果を残した富樫はこのように大会を総括した。

「僕のマイナスの部分を周りに消してもらって、自分の強みを最大限に出せるように周りの4人が動いてくれています。僕はレブロン・ジェームズでもなんでもないので、チームメートに感謝していますし、東アジアの1位になれたことは本当に胸を張れることです。一つひとつの自分がすごいと思ったプレーに立ち上がってワーとなる、この空気感はスポーツの1つの魅力でもあると思うので、僕は本当に大好きな雰囲気でした。フィリピンもそんなにサイズが大きくないので、僕みたいな選手を見て少しでも何かを感じて、そういうフォロー(MVPコール)をしてくれたと思います。うれしいですし、これからもすごく頑張れるような気がします」