文=岩野健次郎 写真=高村初美

華々しいスタートを切ったBリーグにあって、2部リーグである「B2」はやや注目度が落ちるが、それでもB1所属クラブに劣らぬ実力を備えた強豪も存在する。その一つが広島ドラゴンフライズだ。初年度のB1昇格を虎視眈々と狙うチームを率いる「Mr.バスケットボール」こと佐古賢一ヘッドコーチに、チームの状況やバスケ界の話を聞く。

PROFILE 佐古賢一(さこ・けんいち)
1970年7月17日生まれ、神奈川県出身のバスケットボール指導者。中央大学3年次に日本代表入り。卒業後はいすゞ自動車リンクスに入団し、2002年にはアイシンシーホースに移籍して「プロ宣言」をした。ずば抜けた技術と勝負強さで数々のタイトルを獲得し、2011年に現役引退。広島の初代ヘッドコーチとして2014年から指揮を執っている。

先週末、広島ドラゴンフライズはB2中地区1位のFイーグルス名古屋をホームに迎えた。1月28日の第1戦は85-74、29日の第2戦は88-75と連勝、チームは連勝を7に伸ばした。
B2では広島の属する西地区の競争が過剰なまでに激しくなっている。熊本ヴォルターズ、島根スサノオマジック、そして広島の3チームが26勝6敗で並んでいるが、中地区1位のFE名古屋は24勝8敗、東地区1位の群馬クレインサンダーズは23勝9敗と、西地区の3チームより勝率が低い。広島は連勝したが、熊本は茨城ロボッツに、島根は福島ファイヤーボンズにそれぞれ連勝。西地区の混戦は続いている。
今回はFイーグルス名古屋との2試合について、そして新体制となり活発な強化活動を進める日本代表について、佐古賢一に話を聞いた。

自分たちのバスケットを構築して固めることが大事

──Fイーグルス名古屋との第1戦を振り返っていただけますか。

ホームへの強い思いからかもしれませんが、選手が大事にプレーしすぎてしまい、立ち上がりが硬くなりました。 それでもディフェンス面では第1クォーターからペリメーターの広いエリアでプレッシャーをしっかりかけられたと思います。ただオフェンスでは質の悪いイージーなターンオーバーが多く、相手の速攻につながってしまいました。

ディフェンスは悪くなかったのですが、このターンオーバーが原因でアベレージよりも悪い失点となりました。また、26本というフリースローをチームでもらったにもかかわらず、50%の13本しか決めることができなかったのは反省材料ですね。 

──2試合目についてはいかがでしょうか。 

第2クォーターがビッグクォーターとなり、ディフェンスそしてオフェンスの両方で良い形が作れました。後半は点差が開いたので、気が緩んでしまう時間帯がありましたが、ゲームを終わってみて振り返ると、決して悪い終わり方ではなかったかと思います。

フリースローのチーム成功率が85%でシーズンベストとなり、競ったゲームでしっかりフリースローを決められたのは良かったですね。1試合目の成功率が悪かった分をすぐに改善できたことには満足しています。 

──西地区はトップの3チームが大混戦となっています。現在は勝率で3チームが並ぶ状況ですが、順位についてはどう受け止めていますか?

現時点で順位は意識していません。順位よりも大事なのは、我々が『受け身』となるバスケットをプレーしないことです。今は、自分たちのバスケットをしっかりと構築して固めることが大事なので、一つひとつの勝ち負けにこだわるより、目指すバスケットをプレーすることに注力しています。

福島戦の後、チームの成熟度がかなりアップしてきたと感じていて、東地区1位の福島、中地区1位のF名古屋にすべて勝てたのはチームの自信になります。特に、インサイドとアウトサイドのバランスがしっかりしていて、安定した得点を取れていることが良い結果につながっています。 もう一つ大事なのはケガをしないこと。今のタイミングで大ケガがあったら取り返しできないので、そこは十分気をつけて戦っていきます。 

ハードルのみが急に高くなった気がしています

──日本代表について話を聞かせてください。2020年の東京オリンピックへ向けて、日本代表は意欲的に強化を進めています。 佐古さんはどのような方向性で強化すべきだと思いますか。 

私は選手を引退した後、ナショナル委員長として代表チームの強化に携わりました。日本がどういった目標を目指して進んでいくのか、それが一番大事なのですが、そのゴールに到達するためには、たくさんの人間が様々なことを同時進行で色んな角度から行っていかなくてはいけないということを痛感しました。 

近年、バスケット界ではたくさんの環境変化が起こりましたが、今シーズン発足したBリーグもその一つで、以前よりも多くの目がバスケットに注がれています。Bリーグという『プロ』になったということで、『求められること』といったハードルのみが急に高くなった気がしています。

そういった中で、2020年に向けてどういうチームやサポート体制で行くのか、といったことを明確にさせていくのが重要ですし、同様に2020年のオリンピックに開催国枠でしっかり参加できるようにするための『政治力』についても、協会が積極的にアクションを取っていかなければいけません。

──問題はまだたくさんあると思いますが、代表が目指す方向についてはどうお考えですか?

ユース世代をどうやって強化していくか、この点が大事だと思います。 我々が現状の代表チームの強化について「あれをやれ! これをやれ!」と言っても、急に強くなることは決してありません。 しっかりとしたビジョンを作り、どの世代で勝負するのかはっきりさせることが必要だと思います。

ヨーロッパなんかを見ていても、ゴールデン世代などと呼ばれるようなところからNBA選手が生まれていたり、ナショナルチームのFIBAランキングを上げる原動力となっていたりするんですが、そういう世代をまず作っていくことが大事ですね。 

今ちょうどBリーグの一般世間に対する認知度が上がってきたところですが、ここからどの世代にフォーカスを向けていくのか。もちろん、今選ばれている選手たちに対しても我々は方向性を示していかなければいけない。ですが、今までの代表と同じやり方ではなく、もっともっと面白い人材を探して、どう育てていくかに注力していくべきだと思います。 

スターとしての責任を若い世代へドンと投げていくべき

──「人材を探して育てる」と言うだけなら簡単ですが、実現させるとなると大変ですね。

だからそこに資金をどんどん使うべきです。「アメリカやヨーロッパで鍛えたい」と有望な選手が言うなら、そこをサポートするシステムが必要でしょう。やっぱり、選手自身が世界を知って、自分よりレベルの高い選手が世界にはどれだけいて、どういうことをしているのか。そういったことを経験として肌で感じていくことが大事です。 

そういった選手を一人作ると、そこからいろんなメリットが周りに生まれます。その選手に接する人間が増えると、そこから刺激をもらう人も自然と増えますから、組織の中での相乗効果が期待できます。 

まずそういった地道なところをサポートしていくのが『体制』だと思っています。今の日本代表の状況だと、ちょっと語弊のある言い方にはなりますが「選ばれたのだから頑張りなさい」という感じが拭いきれない。それでは選手たちに負担ばかりがかかって、責任感の強い選手ほど『代表に行く気持ち』を保つのが難しくなってしまうんじゃないか。 

──代表の主力選手ともなれば年間を通じてスケジュールは常に埋まるものですが、その状況でもなお『代表への気持ち』を保ってもらうことが必要ですね。

そのためには代表というもののステータスを上げることです。そういった意味で、代表という組織でもそうですし、組織で働く個人レベルでもそうですし、それぞれがいろんな角度から同時進行でやるべきことが多くあるのですが、重要なのは『形』だけでなく『内容』にこだわって、選手にしっかりとフォーカスしていくことだと思っています。 

私が今話したのはあくまでも一つの考え方です。大事なのは、バスケットに興味がある人たちだけでなく、日本全体でバスケットというスポーツを興味を持ってもらうようにしなければいけないということ。それがすべてなのかなと感じています。 

それはスーパースターを作ることもそうだし、バスケットのレベルを上げることもそう。バスケットへの露出という部分でスーパースターは必要なんだろうけど、若い世代で実力のある選手にどんどんフォーカスしていくべきだと思います。そういったスターとしての責任を、20歳ぐらいの若い世代へもうドンと投げていくべきですね。