橋本脩愛

B3に所属する福井ブローウィンズがアシスタントマネージャーとして延岡学園高校3年の橋本脩愛と契約した。Bリーガーを目標にプレーヤーとして入部した橋本だったが、故障もあって2年夏からマネージャーに転身。挫折を経て目標をプロの指導者へと修正した。大学進学ではなくプロのスタッフに進路を見い出し、他とは違う独自の道筋でヘッドコーチを目指す彼は、卒業式を待たずにチームと合流する。

高校からプロの指導者へ「早くプロの世界に行きたい」

橋本はB2ベルテックス静岡で現役プレーヤーとして活躍する父尚明の背中を見て、「早くプロの世界に行きたい」との思いを強めた。周囲からは反対意見も少なくなかったという。「大学進学も勧められましたが、人生は一度きり。パイオニアとして自分で道を作っていきたいという思いがありました」と、Bリーグクラブのスタッフとして契約した経緯を説明した。

延岡学園の楠元龍水コーチと相談して進路を模索した結果、福井の蓮井良信GMに打診した。宮崎出身で年に1、2回延岡学園を訪れている蓮井GMも橋本の仕事ぶりを目に留めていた。「高校生としてはずば抜けているし、チーム環境を良くするにはスタッフが必要だと感じていました。彼ならば、と話をさせていただいた」

加入のタイミングから期待値の高さがうかがえる。福井は27勝3敗(1月26日時点)でB3の1位を走っており、3月の卒業を待てば4月上旬のシーズン終了まで間がない。2月からアシスタントマネージャーとして活動することは昇格争いに向けた『即戦力』として見られていることを意味する。蓮井GMは言う。「チームに必要なピースとして、プラスになる。彼のキャリアとしてもプロのマネージャーの仕事を学んで、ゆくゆくは羽ばたいてもらいたい」。

橋本の中学時代の夢は父と同じチームで一緒にプレーすることだった。しかし、延岡学園入学後の故障が癒えず、選手としての夢は絶望的になり、モチベーションを失った時期もあった。それでも、高校時代に尽誠学園で尚明氏の2学年後輩だった楠元コーチに「橋本の夢はチームスタッフなら叶えられる」と、スタッフとしてプロになる方向性を示された。

延岡学園では学生コーチやビデオ編集なども任されている。「アシスタントコーチのような立場をさせていただきました。試合の映像分析をしたり、楠元コーチ不在時には代わりに練習を見たりしていました」と橋本。楠元コーチは橋本の長所を「素直で真っすぐなところが成長に繋がっている。福井さんでもチームが求めることを全力でやれると思う」と説明した。そして、映像編集はすでにアナリストレベルだと太鼓判を押す。「橋本がいなくなるのは、主力選手が卒業するよりも惜しいです。『私の負担がまた大きくなるのでは?』と、妻も心配するほどです」

橋本脩愛

「父と試合ができるのが恩返し」

橋本はアシスタントマネージャーからキャリアをスタートさせて、ステップアップを模索する。「何も分からない状態から始まります。マネージャーの磯部美空さんから学ばせていただいて、磯部さんの目線を持てるようになって、信頼してもらえるようになりたい。様々な経験を積んで将来はヘッドコーチという立場で、指導者として日本バスケットボール界を盛り上げたい」

目標とするのは長崎ヴェルカの前田健滋朗コーチだ。指導者の中で初めて話を聞かせてもらい、継続的に相談に乗ってもらっているという。準備を進めるうちに覚悟も固まった。

「『一番大事にしているのはバスケットボールへの愛情』という言葉をいただきました。毎日、その言葉を見て取り組んでいます。刺激を受けましたし、人を動かせるような人になりたいです。明日仕事がなくなるという世界でもあります。失敗ばかりしてしまうこともあると思いますが、そこから学んで一日一日を大切にする。迷惑をかけないのはもちろん、チームに勢いを持ってこられるような存在になりたいです」

親子で同時にプロクラブに所属するのは極めてレアなケースと言える。橋本は「ずっと追いかけてきた存在なので、一緒に試合できることが1番の恩返しになる。同じチームでは緊張するのでやりたくありません」と、父との対戦を心待ちにしている。最短でB1を目指す福井でキャリアを積めば、試合で顔を合わせる日もそう遠くないだろう。スタッフからヘッドコーチへ、橋本は叩き上げとして道を切り拓く。