リバウンドが取れず機動力を発揮できない悪循環を解消
bjリーグではラストシーズンとなった昨季を含め歴代トップとなる4度のリーグ優勝を達成するなど圧倒的な強さを見せてきた琉球ゴールデンキングス。しかし、舞台がBリーグとなった今季は、ここまで黒星が先行している。
資金力での差があると見られる旧NBLの強豪相手だけではなく、同じくbjリーグから参戦してきた相手に対しても、例えば同じ西地区の大阪エヴェッサ相手に4連敗を喫するなど、思うように勝ち星を伸ばせていない。
この苦戦の原因の大きな一つは、リバウンド争いで後手に回っていること。bjリーグ時代も琉球は、日本人選手は小柄な選手が多く、高さのアドバンテージはなかった。しかし、その不利を補って余りある豊富な運動量とスピードで優位に立っていた。そして、高さはなくともチーム一丸の守りでリバウンドをしっかり奪い、そこから持ち味の機動力をいかした攻守の素早い切り替えでイージーショットの場面を多く作り出すことが、勝利につながっていた。
しかし、bjリーグ時代に比べると、相手は高さも強さも大きく増している。そして、リバウンドを思うように取れないことで、自分たちの最大の強みである機動力を存分に発揮できない悪循環に陥っていた。通常、リバウンドと言えば、背の高いビッグマンの存在が思い浮かぶもの。だが、琉球のリバウンド強化の救世主となったのは卒業間近とはいえ、専修大学に在学中である現役大学4年生、そしてポジションはガードの渡辺竜之佑だ。
大学時代、ガードでありながら得点とリバウンドでともに2桁をマークすることが多く、『ミスター・ダブル・ダブル』とも評されていた渡辺だが、Bリーグのゴール下は200cm以上のビッグマンによる肉弾戦が展開される場所であり、大学時代とは高さ、パワーともにレベルが数段上の戦場だ。
だが、この中でも渡辺は29日に行われた新潟アルビレックスBB戦で11リバウンド(8得点)をマークし、連敗ストップとなる逆転勝利の立役者となった。「自分の中では昨日と変わらずディフェンス、リバウンドで泥臭いプレーを続けていこうと決めていたので、それができて良かったと思います」と渡辺は試合後に振り返る。
他の大学生プレーヤーに先駆けてBリーグの経験を積む
1試合2桁リバウンドを挙げた日本人選手といえば、リバウンド争いでランキング上位の竹内譲次(アルバルク東京)は何度も記録しているが、彼以外の日本人ビッグマンたちを見ても竹内公輔(栃木ブレックス)が2回、太田敦也(三遠ネオフェニックス)と満原優樹(サンロッカーズ渋谷)は1回のみだ。
リバウンドの本数という数字のみで守備力の優劣が分かるものではない。あくまで指標の一つでしかないことは重々承知しているが、それでもガードの渡辺が2桁リバウンドを挙げることは特筆すべき点である。また、主力の一人として安定した出場機会を得るようなった12月18日の大阪戦以降を見ても、今回の新潟戦を含めた10試合の内、5試合で7リバウンド以上を取っており、10リバウンドがたまたまでないことも明らかだ。
リーグでも屈指のリバウンダーとなっている彼は言う。「大学時代と比較すると、ゴール下で相手とぶつかった時の強さの違いは大きく、最初はリバウンドをここまで取ることは無理だと感じました。ただ、途中でやめることなくリバウンドに行き続ければ結果はついてくると信じて、継続していた結果が出てきたと思います。Bリーグの当たりに慣れてきたのと、トレーナーさんにメニューを組んでもらって筋力強化のトレーニングを積んできた成果もあります」
このように、リバウンドが取れている理由を語る渡辺だが、慣れという意味では在学している専修大学の協力も大きい。年が明けてから特別指定選手制度を使ってチームと契約する大学生選手は多いが、渡辺はシーズン開幕前となる昨夏の時点から同制度を使って琉球に合流し、練習に参加するとシーズン開幕戦でもベンチ入りを果たしている。そしてインカレ終了後、専修大学はオールジャパンに出場する中、チームを離れプロ契約を結んで琉球に完全合流を果たすなど、同世代の誰よりも早くからBリーグのレベルを体感してきた。
「みんなより先にチームに入って、早く試合に出させてもらっているのは大きいです。今、自分がこうして試合に出られているのも、大学の指導者の方が、色々と自分のためにしてくれたおかげで感謝しています」と、大学側の理解があってこその今の活躍があると強調する。
渡辺の高さやパワーを生かす琉球のフォーメーション
187cmの身長は日本人の司令塔としては大きいが、ガードの経験は小学校時代からと長い。「もともと小学校の選抜でガードをやってみたらと言われ、中学でもガードでした。当時から背はチームの中でも大きい方でしたが、ボールハンドリングは自分でも得意だと思っていました。今は周りが自分よりもうまい人ばかりですが……。高校ではフォワードでしたが、大学では高身長のガードを使いたいという方針の中で、ガードとして起用されていくことでドリブルがつけるようになっていきました」
渡辺の台頭は、リバウンドだけでない大事なプラスを琉球にもたらしている。司令塔の彼はボールハンドリングに優れ、リバウンドを取るとスピードにのったドリブルでそのまま攻め込んでいける。ビッグマンがリバウンドを取った場合、その後で味方のガードにボールを渡すが、渡辺がリバウンドを取ればその動作を省略できる。それにより、琉球の武器である攻守の素早い切り替えからの展開の速いオフェンスがよりやりやすくなる相乗効果も出ているのだ。
また琉球は今、オフェンスにおいて外国籍選手がフリースローラインより後方となるトップの位置でボールをもらい、そこからパスを展開していくパターンが多い。そうなると相手の外国籍選手も、外につり出されてゴール下にスペースが生み出される。ここにマッチアップする相手の日本人ガードより高さやパワーで勝る渡辺が飛び込んでシュートするのは、効果的なオプションとなっている。
「まだまだドリブルもパスも弱いと思うので、日頃の練習から意識していきたいと思います」と本人も自覚しているように、司令塔としてのゲームメークの部分であったり、「もともと得意ではない」と認めるジャンプシュートは要改善の部分だ。しかし、「みんな得意なものが違う。自分はリバウンドをできるガードとして、試合に出たときに流れを変えていきたい」と語るように、他のガードにはない貴重な個性をしっかり認識できてもいる。
ゴール下でこそ輝きを増す、司令塔としては稀有な武器を持っている渡辺が、チームの新しい起爆剤となれれば、これから琉球の巻き返しがより楽しみになってくる。