イメイ・ユドカ

女性職員との『不適切な関係』により1年で退任

2021年、セルティックスでは長くチームを率いたブラッド・スティーブンスが球団社長に就任し、ヘッドコーチをイメイ・ユドカ譲った。当時44歳のユドカはこのチャンスを生かし、1年目の2021-22シーズンにチームをNBAファイナルへと導く。ファイナル進出は12年ぶりで、前任者スティーブンス時代にはなかった出来事。若いチームは若きコーチの下で殻を打ち破り、その先行きはさらに明るいものと思われた。

しかし、ユドカがセルティックスの指揮を執ったのはそのシーズンのみ。2022年オフに球団の女性職員との『不適切な関係』が明るみに出て、クラブから1年間の職務停止処分が科された。この間に暫定ヘッドコーチだったジョー・マズーラが正式なヘッドコーチに昇格。ユドカはセルティックスを去った。

今シーズン開幕を前に、ユドカはロケッツのヘッドコーチに就任する。優勝を狙える名門であるセルティックスを追われた彼は『格下げ』を味わったが、今シーズンはそれまで停滞していたロケッツの再建が急ピッチで進んでおり、彼はコーチとしてのキャリアを回復しつつある。

現地1月13日、その彼が退任後初めてセルティックスのホーム、TDガーデンにやって来た。試合開始前に彼の名前がコールされると、ボストンのファンは歓声とブーイングの半々で出迎えた。試合は好調を維持するセルティックスがクォーターが進むごとに点差を広げて145-113の完勝。ジェイレン・ブラウンが32得点、ジェイソン・テイタムが27得点と、それぞれ自分の成長に手を貸した『恩師』に恩返しをして見せた。

試合後、ユドカは「ここで築いた人間関係はとても大きい。私はここで素晴らしい1年を過ごした。しばらく顔を見ていなかった何人かに会えて良かった」と感慨深げに語り、セルティックスを去った後悔の念を漏らした。「自分の仕事をやり終えないまま去ることになった。私は周囲の人たちと良い関係を築き、良い影響を与えたい。最初の1年間が上手くいって、期待させた人たちを失望させてしまった」

そして報道陣に対して「嘘があった」と告白した。それはユドカの退任に際して、セルティックスをの選手たちが「何も知らない」だとか「寝耳に水」と語ったことだ。ユドカは言う。「選手たちには何が起きたのかを率直に話した。コーチ陣にも謝罪した。できる限りの説明をして、彼らそれぞれに事態を理解してもらいたかった。このオフやマーカス・スマートの結婚式でもみんなと会う機会があったから、その都度すべてを伝えてきたんだ」

女性問題での退任はユドカにとっては不名誉な出来事だ。選手たちは、自分たちを置いて去ったユドカを悪く言うこともできただろうが、事の次第を知っても誰一人としてメディアに明かそうとはしなかった。ジェイレン・ブラウンは「彼がNBAのコートで指揮を執っている姿をもう一度見ることができて良かった」と語っている。

ブラウンは今でもユドカの教え子であることを誇りに思っている。「ブラッドのバスケをずっとやってきた僕らにとって、イメイの指導はありがたいものだった。ブラッドも僕たちのためにプレーをデザインしてくれたけど、準備したものをやってみろ、という感じ。イメイは『自分で考えろ』だった。彼が教えてくれたのは、ありのままの自分としてプレーする方法だ。ジョー(マズーラ)と一緒の今も、僕はそのやり方を発展させている。自分らしくプレーしながらチームメートのベストも引き出す、そのバランスを学んでいるんだ」

ファンの半数は彼にブーイングを送るかもしれないが、選手たちは今もなお彼を支持し続けている。ユドカがスキャンダルを起こさずセルティックスのヘッドコーチであり続けていたら──。その『if』が実現することはもうないが、彼は1シーズンでしっかりと爪痕を残し、それが今のセルティックスの強さに繋がっている。