文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

「先発は簡単、控えが僕にとっては一番難しい」

昨日の勝利の立役者となったアレク(湊谷安玲久司朱)は、ベンチからの出場で9得点。突出した数字ではないが、勝負どころの第4クォーターで挙げた9得点の価値を誰もが理解していた。MVPを獲得したジェイソン・ウォッシュバーンがわざわざお立ち台へとアレクを導き、「MVPは君だ」と称えた発言がそれを証明している。

それでも当の本人は我関せずの姿勢だ。「今日は僕が取りましたけど、そういうのはあまり考えていません。誰が取ってもいいので1勝、というのを目指してやっています。MVPが誰だろうとそこは気にしてないです」

連敗を止めた試合の直後であっても、彼が話すのは反省ばかり。「勝ちましたけど、まだまだちゃんと徹底できてないなという部分がでた試合でした。明日はもっと引き締めていかないと」

洛南高校から青山学院大、というキャリアはシーホース三河の比江島慎と同じ。比江島の2年先輩であるアレクは、スキルとサイズを兼ね備えた選手として順調なキャリアを歩んできた。ただ、Bリーグ開幕にあたって加入した横浜ではベンチが定位置。川村卓也のバックアップ、あるいは3番ポジション(スモールフォワード)で高島一貴に代わる攻撃的なオプションとして起用され、平均13.4分のプレータイムを得ている。

「今までスタートも控えも経験して、試合に出ない立場も経験してるので、どんな選手の気持ちも分かります」とアレクは言う。「僕の中では先発は簡単で、控えが一番難しいポジションだと思っています。竹田(謙)さんにしろ、すごいと思います。流れを変えないといけない役割なので、それができるようにしていきたいです」

昨日の滋賀レイクスターズとの第1戦、最終クォーターで横浜は滋賀の猛攻を浴びた。追う立場は強く、受け身に回った横浜は打つ手がなく、滋賀の勢いに飲み込まれようとしていた。そこで流れを変えたのがアレクだ。

「シュート1本入ると全部入る気持ちになっちゃうんです。第4クォーターで出してもらって1本目が入ったので、そこからはいつも通り打ちました」と、彼は派手な活躍を振り返る。

苦しい時間帯に突出した勝負強さを見せるアレクに会場のブースターは大歓声をあげていた。それは本人も感じたという。「すごく盛り上がってくれてるなっていうのは伝わりました」。ただ、ウォッシュバーンや川村のように観客を煽って盛り上げていくスタイルについては「ああいうキャラじゃないので、背中で語ります」と渋く一言。千両役者である川村と交代で入るのでは目立たないのも無理はない。しかしアレクはベンチから出て来ては、そのタイミングでチームが必要とする仕事をさらりと行う。

そんなアレクの働きに、青木勇人ヘッドコーチは「勝負どころでボールを扱う時間帯があまりなかったのですが、そこで結果を残してくれてすごく力強いです」とアレクを称えた。表情をほとんど変えることなく淡々と得点を決める横浜の『仕事人』は、これからも自分の仕事をことさらに誇張することなく、背中で語っていくだろう。ファンとしては、見る価値のある背中である。