ケイド・カニングハム

30得点12アシスト0ターンオーバーと『完璧』な出来

「選手の真価はプレーオフでしか測れない」という言葉があるように、緊張感が高まった試合でもハイパフォーマンスができるかどうかはレギュラーシーズンには分からない要素です。しかし、シーズン中であっても極限状態に置かれていれば話は別。NBAの連敗記録更新がかかった試合でケイド・カニングハムは30得点12アシスト0ターンオーバーの働きで、ついに連敗を止めました。

今シーズンのカニングハムはケガによる長期欠場が影響して試合勘が足りないのか、ターンオーバーが非常に多いのが問題でした。ただし、そのターンオーバーのほとんどがチームメートとの連携ミスで、カニングハムがディフェンスを見えていない面もあれば、オフボールでのポジショニングが悪くパスコースを作れないチームメートの問題でもありました。

チームで唯一まともなハンドラーであるカニングハムがミスをすれば、当然のようにオフェンスは停滞します。11月の15試合の全敗は、フィールドゴール成功率42%、ターンオーバー4.2と低調だったカニングハムに大きな責任があったのは間違いありません。全く勝てなくなったピストンズは悪い流れが加速していきました。

しかし、NBAの連敗記録が見えてくるとカニングハム個人のパフォーマンスは劇的に改善していきました。直近6試合では31.7得点、フィールドゴール成功率57%、3ポイントシュート成功率46%、7.2アシスト、1.7スティールとすさまじいハイパフォーマンスです。ピストンズの得失点差はカニングハムがコートに出ている38分間では-1.7点と互角の戦いができるようになり、その一方でベンチに座っている10分間で-9.8点と致命的な点差をつけられ、連敗を重ねました。

連敗街道を突き進むピストンズなのに、カニングハムは手が付けられない。そんな不思議な状況でしたが、相手ディフェンスからすると「カニングハムにさえやらせなければよい」状況でもありました。ダブルチームでボールを手離させてしまえば、周囲には展開力も決定力も足りない選手が並んでおり、ピストンズオフェンスは停滞させられたのです。結果的にカニングハムには完璧を上回る完璧さが求められました。

そして迎えたラプターズ戦。当日にOG・アヌノビー、プレシャス・アチュワ、マラカイ・フリンのトレードが決まったことで選手層が薄くなり、何よりもリーグ最高のディフェンダーであるアヌノビー不在によりカニングハムを止める手段がなくなる、ピストンズには絶好のチャンスがやってきました。

前半のカニングハムは最近では珍しくジャンプシュートが決まらず、フィールドゴールは8本中1本成功の4点と得点では苦しんだものの、自分にマークが寄ってくると適切にパスをさばいていきました。しかし、決定機を演出しても3ポイントシュートだけでなく、ダンクのミスまで重なるなど苦しい状況は変わりません。ピストンズ以上にラプターズがミスを重ねたことでリードを奪いはしたものの、これまで何度も経験した逆転負けの雰囲気が漂っていました。

後半になるとラプターズがトランジションを連発し、パスカル・シアカムやデニス・シュルーダーのドライブ、そしてゲーリー・トレントJr.の3ポイントシュートで一気に逆転します。しかし、ピストンズもケビン・ノックスやボーヤン・ボグダノビッチの3ポイントシュートが決まりコートを広く使えるようになると、マークが緩くなったカニングハムの時間がやってきます。

ディフェンスの隙を突いて次々とドライブを決めたカニングハムは、ディフェンスでもスティールからの速攻を作り、そして3ポイントシュートもきっちりと決めてリードを奪い返します。ミスを誘いたいラプターズがプレッシャーディフェンスに出てきても、確実にパスをさばきました。後半だけで26得点7アシスト、しかも0ターンオーバーのカニングハムの活躍で約2か月ぶりの勝利をつかんだのです。

試合終了とともにコートにしゃがみこんだカニングハムは疲労困憊に見えました。連敗が続くほどにプレータイムが長くなった上、この試合の前半に足を痛めたことで後半は走ることすら簡単ではない様子でしたが、駆け引きの上手さと判断力でチャンスを作り、強靭なメンタリティで最後まで戦い抜きました。

ハイパフォーマンスがやっと報われての連敗脱出ですが、チームの問題が解決したわけではありません。この試合でも余裕を持って逃げ切れる時間と点差になってから、余計なファウルを繰り返したり、時間を使いたくないラプターズの策を阻まなかったりと、多くの課題が見られました。

カニングハムは試合後にこう語っています。「今日のような炎をずっと燃やし続けるんだ。まだ3勝目で、自分たちのあるべき姿にはほど遠い。自分たちで堀った深い穴の中にいるけど、そこから這い上がっていく。この1勝は反撃の第一歩さ。今日の気持ちを忘れずに次の試合にも挑みたい」。ピストンズを勝たせるために、カニングハムにはシーズンを通して完璧なプレーが求められ続けます。