出だしでリードを許すと、そこから巻き返すことなく富山に完敗

川崎ブレイブサンダースは12月20日に行われた富山グラウジーズ戦に71-87で敗れた。これでリーグ戦は5連敗となり、しかも簡単な試合は1つもないのが今のBリーグとはいえ、その内の3試合はリーグ下位の相手という苦境に陥っている。

川崎は第1クォーターの立ち上がりからエースのニック・ファジーカスが日本人ガードと対峙する得意のミスマッチを作り出す。しかし、富山にとってこの攻めを仕向けてくるのは想定内であり、簡単にファジーカスにボールを渡さない。その結果、ファジーカスによるミスマッチを作れても、ショットクロックが残りわずか、またはシュートエリアから離れた位置となり、タフショットを強いられる。それでも確率良くシュートをねじこんでくるのがファジーカスだが、この日はフィールドゴール9本中2本成功の6得点に抑えられた。

そしてエースのシュートタッチが悪い中、川崎は臨機応変に新たな攻め手に移行できなかった。その結果、「相手のディフェンスが用意してきた罠にはまって3回、4回連続と同じオフェンスで失敗する。そうしたら相手は乗るのでシュートも入りやすくなる。試合の流れを考えると出だしのマネジメントが響いたと思います」と佐藤賢次ヘッドコーチが振り返るように、なるべくして富山に先手を取られてしまう。

第1クォーターで11-21と2桁のビハインドを背負った川崎は、そこから相手に傾いた流れを変えることができない。オープンを作っても決めきれず3ポイントシュートが37本中9本成功と不発に終わったことは痛かったが、シュートは水物だ。それなら粘り強くディフェンスで我慢することで、勝機を見出していくのが優勝候補だが、今の川崎はそれができていない。この試合でも、次々と走られてイージーポイントを献上することで富山に気分よくプレーさせてしまったのが大きな敗因となった。

佐藤ヘッドコーチは、このようにチームの課題を語る。「選手一人ひとりが今、どういう状況にいるのか分かっています。そしてホームで絶対に負けられない覚悟でコートに立ったと思います。連敗で自信をなくしているところはありますが、トランジションで簡単にやられる、コミュニケーションミスやチームルールを守れていない、特にディフェンスで大前提の質が低くなっています」

「やるせない気持ちで、『こんなに負けが続くのか……』という感情になります」

川崎の中心選手である藤井祐眞は21得点を挙げ、第2クォーターには3ポイントシュートのブザービーターを決めて雄叫びを挙げるなど、闘志満点のプレーでチームを牽引した。

しかし、それでも勝利をもたらすことはできなかった。「良いシュートを打っているのに入らなくて、どんどん精神的に落ちてディフェンスに影響してしまいました。全員が良いシュートを打っているのであれば、入らなくてもしっかり切り替えて次のディフェンスを守ろうと、強い気持ちを持たないといけないですが、それが『あー』となってしまったところはあります」

このように藤井は敗因を語ると、「正直、川崎に入って5連敗は経験したことがなく、初めての感覚です。やるせない気持ちで、『こんなに負けが続くのか……』という感情になります。なんていったらいいのか……」と率直な気持ちを明かす。

ただ、同時に「初めての経験ですけど、しっかりと向き合っていかないといけない」と正面から今の苦境を受け止める。そして、チームの芯がブレてはいけないと強調する。「今やっていることをチームとしてしっかり遂行し、自分であり味方を信じる。そこだけは絶対に崩さずにやらなければいけないと思います」

今シーズンの川崎は、ここ数年では最もタイムシェアを強調した選手起用を行い、ロスコ・アレン、トーマス・ウィンブッシュの新戦力コンビなどが積極的に仕掛けるなど、攻撃のバリエーションは増えている。しかし、連敗の幕開けとなった宇都宮ブレックス相手に2試合続けて競り負けた終盤のプレー選択が象徴的だが、プレッシャーのかかる場面になると藤井とファジーカスのツーメンゲームなど、Bリーグ誕生前の東芝時代から在籍するメンバーたちによるオフェンスに偏りがちになる。宇都宮の連戦において、アレンの1対1からのドライブは宇都宮ディフェンスを苦しめていたが、勝負どころで彼の突破力を生かすセットプレーはなかった。

佐藤HC「チームとしてどうしていくのかが今、問われている状況だと思います」

川崎の偏ったオフェンスは相手も熟知しているが、それでもこれまではファジーカスが分かっていても止められない驚異の決定力を見せて競り勝ってきた。しかし、彼も38歳となり衰えは否めない。今シーズン限りでの引退を表明した通り、数年前に比べると支配力は落ちてきている。だが、川崎はその変化にアジャストできているのか。

帰化選手としてみれば、今でもファジーカスは圧倒的なアドバンテージを生み出しているのは間違いない。だが、右肩上がりで外国籍選手のレベルが上がっている中、ファジーカスに変わらない責務を負わせるのは妥当な選択なのだろうか。藤井とファジーカスのツーメンゲームと並ぶ攻撃の柱を作ることが求められてはいないのか。

藤井は、選手それぞれがより強い責任感を持ってアタックしていくことが重要と考える。「もちろん今やっていることを続けていきたいです。(藤井とファジーカスの)ツーメンゲームはうちの武器です。ただ、僕らを囮にして、周りが積極的にやってほしい。実際、トーマス、ロスコがアタックして良い流れを作ってくれることもあります。(野﨑)零也や(飯田)遼が高確率でシュートを決めて、ベンチメンバーが勢いを与えてくれる試合は何試合もあります。みんなが、持ち味を出すことが川崎の強みになってきます。何か新しい武器を作ろうというより、一人ひとりが攻め気を持って脅威になっていければ自ずとバリエーションが増えてくると思っています」

また、佐藤ヘッドコーチは立て直しの鍵として原点回帰を挙げるが、それと同時にテコ入れを行う可能性も否定しない。「連敗が続くといろいろな声も上がります。『これでいいのか?』となりがちですけど、最初に決めたことを徹底して最後までやりきろうと。今は開幕前に『これをやろう!! 』と決めたことができていないので、原点に立ち返るしかないと思っています。それでも変化は必要ですので、今までの積み重ねもある中でどう変化させるのか、チームとしてどうしていくのかが今、問われている状況だと思います」

川崎は明日からアウェーに乗り込んでファイティングイーグルス名古屋と対戦。さらに年末年始は名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、アルバルク東京と難敵との試合が続く。Bリーグ開幕から一番の危機と言えるこの状況をどうやって乗り越えていくのか、その選択は今シーズンの行方を大きく左右するものとなっていく。