四日市メリノール学院中学女子を指導する稲垣愛コーチは全中、ジュニアウインターカップを2度ずつ制した実績を持ち、昨夏からは高校も率いるようになり志摩加奈子(3年)を中心に、着実に実力を伸ばしている。ウインターカップ初戦は前回大会3位の東海大学附属福岡。強豪相手にもチャレンジを楽しみながら目標のベスト8まで駆け上がる。
「高校生は考えて当たり前で、私も考えなさいと言いません」
——1年間中学、高校の両方を見られた手応えはいかがでしょう。
デメリットを探したらいくらでもありますが、メリットに目を向ければ両方で切磋琢磨ができるのは大きいです。以前は中学が全国優勝を狙う空気の中に、高校生を紛れ込ませると話をしました。でも今は中学は全国優勝を狙っているんですが、熱量、取り組む姿勢は、高校生の方が上になってきたかもしれません。高校生になるとトレーニングも相当ありますし、シュートの打ち込みも中学生とは比にならないほど時間をかけていて、高校生はよく成長したと思います。
志摩が1年時からずっと試合に出て、今年はエース、キャプテン、ポイントガードという大きな立場です。負けないチーム、どんどんチャレンジするチームを作りたいという意味で彼女の力が大きかったです。
——中学生と高校生でティーチングとコーチングのバランスはどう考えていますか。
あまり言うのは好きやないんです。手を抜くとか、やってはいけないことってあると思います。それをレギュラーがすれば、周囲はどう思うのかと。そういうところしか私は怒らないですね。中学生はまだまだ訓練が必要です。やらされているとなると身につかない。なぜ必要かと考えさせることが大事です。高校生は考えて当たり前で、私も考えなさいと言いません。
高校から入部してくる子たちもいますが、そういう考え方ができているのは、その子たちの中学の指導者のおかげだと思います。自分が足らないところはここやなって思うことがいっぱいあり、中学校の先生がすごいと思います。特に丸亀西の笠井智代コーチの教えは素晴らしいです。志摩の先生なんですけど、バスケットに一生懸命取り組む姿勢を言われてきたと思います。彼女の話を聞いていたらすごいと思うことがいっぱいあります。
——近年で影響を受けた指導者は。
愛知学泉大の木村功先生を勝手にすごく尊敬しています。去年のインカレは自分の中で大きなターニングポイントでした。愛知学泉は留学生もいないですし、180cmクラスの子がいるわけじゃない。でも準決勝で白鵬大と80-89で戦えて、スター選手が多い筑波大を3位決定戦で69-60で倒した。小さくてもできるとか、機動力で勝負するとか、組織的に戦うバスケットが胸に響きました。日本のバスケットってこうあるべきだと思い、モチベーションが爆上がりしました。
「隙をなくして相手の隙を突きに行くバスケットをしたい」
——今大会の目標は。
ベスト8に入りたいと子供たちが言っているので、そこにチャレンジしています。ベスト8クラスのチームと結構試合をやらせてもらったので、力がついてきたかなと思います。まだまだ最後のフィニッシュを決め切れないし、想定外のターンオーバーがあるなど発展途上ですが、全く見えない世界じゃなくなったという気はします。
サイズがないので外のシュートが中心ですけど、タフなジャンプシュートを決め切る力が必要です。ディフェンスでは残り1秒で打たれないという予測もそうです。インサイド陣がキャリア不足でなかなか得点力が上がってこないので、そこにフォーカスしてやっていきたいです。
——一番の強みは何でしょう?
ディフェンスからのブレイクです。いかに組織的に守ってブレイクを出せるかで、練習でも時間を割いています。ブレイクでダメだった時にセットに入っていくんですけど、そこでどれだけ攻められるかですね。1年生2人がスタートの若いチームで、3年生のスタートは志摩1人とキャリアのない子たちが多いんですけど、それもひっくるめて大きく成長しました。この1年は子供たちが非常に前向きに頑張ってやってくれました。
——初戦の相手は東海大学附属福岡です。去年は桜花学園を倒したミラクルなチームでした。
力は相手の方が圧倒的に上です。まだまだ足元にも及ばないですが、留学生を相手にどうやったら勝てるかなと考えるのが好きなんです。子供たちにもラッキーだって伝えました。「誰にでも隙はある。どこにだって隙があるからそれを突こう。だけど、あなたたちも隙だらけだから、あなたたちの隙をなくせ」って言っています。隙をなくして相手の隙を突きに行く、そういうバスケットをしたいですね。
——チャレンジを楽しむ姿勢が根本にありますね。
強い相手とやると面白くないですか。圧倒的に力が足りないと特にアイデアが浮かぶし、試してみたいことが出てきます。U16日本代表のアジア選手権でオーストラリアと決勝だったんですが、相手にはWNBAに行くんじゃないかみたいなすごいスター選手がいるわけですよ。「こうやって抑えたら面白いんじゃない」という感じで、新たな守り方を試した結果、ほぼ彼女にやられませんでした。でも違うところでやられちゃって74-80で敗れましたが、すごく良い試合でした。代表の子たちも180cmオーバーがいなくて高さで苦しみましたが、よく頑張って面白いバスケットをやってくれました。だから、どこかにきっかけはあると思っています。
「あきらめの悪い子供になってほしい」
——中学時にエントリー外だった生徒が主力に成長したそうですね。
志摩を中心にここ2年間続けてきましたが、中学校の時にエントリー外だった太田蒼(2年)が今ではポイントゲッターなんです。すごく成長してくれました。真面目でコツコツ腐らず、中学校の時もずっと練習していたので、いつか花開くだろうなとは思っていました。
——太田さんの例は中学と高校の両方を見ているから分かる部分ですね。
好きなバスケットを、試合に出る出ないによってあきらめたりとか、踏ん張れなかったりしちゃう子がいます。でも、そこを乗り越えたら、高校で花が開くかもしれない。大人になった時の勝負で途中であきらめちゃう子と、踏ん張って頑張り続けた子だったら全然違うと思う。だから、バスケットじゃなくてそこの勝負で負けてほしくないです。あきらめが悪いから次のチャンスが出てきたり、どんどん成長したりする。だから、あきらめの悪い子供になってほしいです。今回、2年生で本当にエースになりつつある太田が中学からずっと頑張ってくれて結果が出ました。こうやって頑張ってきた先を考えると、すごくうれしいです。
——最後にメッセージをお願いします。
中学生を目にする機会の方が今まで多かったと思うんですけど、ウチの高校生が頑張って、楽しそうにバスケをやってくれるところを見てもらえたらいいと思います。京都精華学園さんもそうですし、中高で頑張られているチームはたくさんあります。メリットに目を向けて、一つのチームとして勝ちにこだわるプロセスを大事にしていきたいです。