佐藤賢次HC「苦しい時に互いに支え合って乗り越えていくことが『NICK THE LAST』にふさわしい」
12月13日、Bリーグのレギュラーシーズンと並行して開催される天皇杯3次ラウンドが行われた。川崎ブレイブサンダースはホームに群馬クレインサンダーズを迎え、接戦の末77-75で勝利した。終始リードを奪い、主導権を握る試合展開ではあったものの、何度も群馬に追い上げられ最後の最後まで勝敗の行く末が分からない緊張感のあるゲームを制した。
先制点こそ許した川崎だったが、長谷川技のナイスアシストでジョーダン・ヒースがゴール下を決めると、そこから11-0のランを生み出し、最高の立ち上がりでリードを奪った。しかし、タイムアウトを取って立て直しを図った群馬に対してミスが続き、3分以上得点が止まり追い上げを許してしまう。その後、藤井祐眞の3ポイントシュートを皮切りに再び流れを作ると、第2クォーターに入ってもニック・ファジーカスの高確率なシュートやトーマス・ウィンブッシュのアタックなどで着実に得点を積み上げて43-36で前半を終えた。
後半も川崎がリードを保つ展開が続いたが、第3クォーター残り3分にコー・フリッピンにスティールからダンクを叩き込まれ逆転を許してしまう。それでも、タイムアウトを取って流れを切った川崎が64-63と1点リードで最終クォーターへ。その後も川崎がリードを保ち続けていたが、残り2分58秒には八村阿蓮に3ポイントシュートを決められ1点差に迫られた。だが、ここで長谷川が2本のスティールとリードを広げる得点を挙げ、最大のピンチをしのいだ。そして逆転を狙ったトレイ・ジョーンズの3ポイントシュートがリングに弾かれ試合終了。群馬の猛追を振り切った川崎が準々決勝進出を決めた。
この試合、ファジーカスはチーム最長の31分8秒コートに立ち、ゲームハイとなる27得点をはじめ9リバウンド2アシスト1スティール1ブロックと大活躍だった。今シーズン限りでの引退を発表しているファジーカスに対して佐藤賢次ヘッドコーチは「自分だけがスポットライトを浴びるシーズンにしたくないとニック本人は言っていますが、チームメートそれぞれの中に最後だという思いはあります」と話し、さらにチーム一丸でこのシーズンをより良いものにすると続けた。「シーズン中も試合中も苦しい時は絶対にあります。頭を下げないでお互いに声をかけ、支え合って乗り越えていくことが『NICK THE LAST』にふさわしいことだとみんなに話しました」
辻のセレブレーションを披露「長年、彼を見てきた自分が真似をして見せることができてよかった」
コート上での活躍ぶりを見るとにかわに信じがたい気持ちにもなるが、ファジーカスの引退の時はどんどん近づいている。そのため、対峙する選手やスタッフ、そしてファンはコートに立っている姿を目に焼き付けようとファジーカスに視線を送るだろう。
川崎に入団した2012年から9シーズンプレーし、プライベートでもファジーカスと親交が深い群馬の辻直人にはどんな思いがあっただろうか。すでにレギュラーシーズンでの対戦は終え、もしチャンピオンシップでの対戦がなければ、公式戦での対戦は今回が最後だ。
「そういうこと考えずにチャンピオンシップでの対戦もチャンスがあると思って、天皇杯の一戦に過ぎないと自分に言い聞かせて臨みました」と、辻は大きく意識しなかったという。
同様にファジーカスも「今日は感情は抜きにして、いかに勝つのかという試合でした。後から振り返って、あれが(辻との)最後の試合だったと思うことはあるかもしれませんが、相手のことを考えている余裕はなかったです」と話した。
特別意識しなかったと話す2人だが、絆の深さが表れる場面が試合中にあった。第2クォーター中盤、辻が3ポイントシュートを外した直後に、ファジーカスがトップの位置から3ポイントシュートを決めて、辻が3ポイントシュートを決めた際に行うセレブレーションを真似した。会場のビジョンにその姿が映し出されると、ドッと歓声が湧き上がった。
その場面をファジーカスは振り返る。「試合前にヒースと、チャンスがあったらやってみようという話をしていて、3ポイントシュートが入った後にボールがデッドになったのでやりました。あれはリスペクトの気持ちしかありません。長年、彼を見てきた自分が真似している所を見せることができてよかったと思っています。彼が苦笑いしているのが面白かったです」
それを見た辻は「めちゃくちゃ嫌な気持ちになりました」と満面の笑みで答え「僕が外して、彼が決めるというのが特に…」と苦笑いが続いた。さらにこの試合、勝負どころで活躍した同期の長谷川も含めた古巣の選手に対して「敵のようで敵でない。言い表しにくい存在です。(ファジーカスのような年上の選手が活躍すると)まだまだ自分もやれるんだと励みになります」と特別な存在であることを話した。
既報の通り、試合翌日にSNS投票でファジーカスのオールスターゲームへの選出が発表された。X上でファジーカスへの投票の音頭をとっていた辻は「(もしファジーカスが選ばれるなら)なんなら同じチームにしてくれないかな。どないかして」と冗談混じりに話した。オールスターでの和気あいあいとした『ツジーカス』が見られる喜びとともに、2人の対戦を再びチャンピオンシップで見られることを期待したい。