畠山俊樹

高校バスケットボール界随一の指導者、仙台大学附属明成の佐藤久夫コーチが6月に亡くなり、その後を継いだのが32歳の畠山俊樹コーチだ。2009年に明成のウインターカップ初優勝に貢献し、その後プロ生活を続けていたが、5月に選手(越谷アルファーズを)を引退して母校に戻った。就任から4カ月余り。佐藤コーチの教えを、自らの言葉で伝えてチームを成長させている。初戦の相手は初優勝時の決勝の相手でもある福岡第一。1回戦屈指の顔合わせに、青年コーチは運命を感じている。

「先生が亡くなった後も生徒は明成に残ってくれた」

——8月からコーチ人生がスタートしました。指導の軸に据えていることはなんでしょう。

プロとも大学生とも全く違う高校生が相手なので、アジャストというか何を芯として教えるかが難しいです。教育の一環、高校の部活動なので、基本的には人間性を大事にしてブレずにやっていきたいと思っています。だからこそ、「バスケットボール選手として、こういうことが必要だよね」と伝えることで生徒も分かってくれます。バスケットボールを通じて、人間育成をさせていただいています。

——久夫先生の下に集まった選手たちに学校に残るかを確認されたそうですね。

基本的に久夫先生のバスケットがしたくて来た子たちなので。2、3年生は時期的に今転校すると、手続きなどでバスケットができない時期が出てしまいます。1年生に関しては、まだやれるところもあったので「転校してもいい」ということを伝えました。それでも1年生は全員残ると決めてくれました。

——新生活には慣れましたか。

8月からなので4カ月ちょっとですが、まだまだ慣れないですね。何を伝えるべきなのか、どこの成長を促すべきなのかというところが難しいです。 でも日々楽しく、子供たちと成長していければと思うだけで、引退に悔いもないです。

——記憶に残る試合はありますか?

インターハイはアシスタントコーチとして携わり、8月からヘッドコーチをさせていただいていますが、一番はトップリーグですね。福岡大学附属大濠戦が初の公式戦でした。トップリーグで戦って「少し難しいかな、悩むかな」と思っていたんですけど、そこまで深く考えることもなく、今やっていることが正しかったと感じることができました。初戦の大濠戦は全くダメでしたが、試合を重ねるごとに底上げもできたし、何をすればうまくいくのか、選手たちも気づいたんじゃないかと思います。

——OBの安藤誓哉選手がトップリーグの試合を解説されました。何か言葉を交わしましたか。

はい。年齢は下ですけど、先輩後輩という関係性でもなく、家族ぐるみですごく仲が良いんです。誓也は良いチームと言ってくれて、すごくうれしかったです。また、OBに関して今まで応援はしていただいてもバラバラな感じがありましたが、私に代替わりしたことでOBが結構まとまってきたんです。私は3期生なので、明成の歴史を作ってくださった先輩方と一緒にプレーできました。後輩たちもしっかり受け継いで頑張ってくれていて、それをOBが応援してくださるのはうれしいです。

畠山俊樹

「運命的なチーム、福岡第一と良い試合がしたい」

——対戦カードが決まりました。福岡第一や井手口孝コーチへの思いを聞かせてください。

福岡第一は運命的なチームだと思います。私が初優勝した時も決勝の相手でしたし、久夫先生が亡くなられて、インターハイで負けたのも福岡第一。そして、私の初のウインターカップの相手にもなりました。 井手口先生には声をかけてもらい助けていただいていたので、少しでも良い試合がしたいです。

——ラストスパートで伸ばしていきたい部分は何でしょう。

まずは我慢することです。自分たちが上手くいかない時に何をしなきゃいけないのか。崩れてしまうことが多々あるので、オフェンスもディフェンスも我慢できれば、どのチームにも勝つチャンスはあります。今までは自分たちが何をしなきゃいけないのかが分かっておらず、「我慢し切れずにプツンプツンと切れてしまうと、どのチームにも負けるよ」とはっきり言いました。映像で見せて、これができないから負けたんだと。逆にできていた時間帯はすごく良いチームに見えていたと伝えています。子供たちがいかに練習で徹底してできるかというところで、徐々に気付き始めているかと思います。

——今年のチームの特徴は。

エースがいないことです。 2013年に八村塁(現レイカーズ)が入ってきたぐらいから、山﨑一渉(現NCAA1部ラドフォード大)もそうですけど、一人はエースがいました。今年は能力や高さが特別に高いわけではないですが、やるべきことをやれば、誰かが日替わりヒーローになれます。「え、この子が活躍するの?」 という感じで、見ていて面白いと思います。

畠山俊樹

「3年生トリオの成長に期待」

——軸になる選手は。

今年のチームに関しては村忠俊、ウィリアムス・ショーン莉音、佐藤晴の3年生3人です。まだ、自分のことで精一杯な部分がありますが、彼らが一皮むけれて、もっとチームを引っ張ってくれれば、さらに良い選手、良いチームになれると思っています。

——1年生ガードの小田嶌秋斗選手が、トップリーグ新人ベスト5に選ばれました。

基本的に夏からずっとスタートで出ています。小田嶌だけじゃなく、2 年生の石岡青や佐藤勇太が伸びてきています。1年生なので逃げてしまったり、ケツが青い部分もありますが、勝ちにいくためにもいろいろと考えています。

——体育館には写真が飾られていますが、久夫先生への思いを胸に過ごされているということでしょうか?

しっかりやるだけなので、私自身はそこまでプレッシャーのようには感じていません。上手くいかなければ自分が責任を取るだけです。でも、毎日久夫先生の写真を見て、「あー、久夫先生だったらこう言うんだろうな」と思ったりもしますが、久夫先生しか言えない言葉だったり、久夫先生でしか伝わらないことがあると思っています。同じことを言ってもしょうがないので、私の言葉で選手たちに伝えています。

——畠山コーチに芯の強さがあるからこそ、「俊樹、頼む」と久夫先生から伝えられたのでは。

本当に10分程度ですけど、「お願いできないか」ということを言われたので、「頑張ります」と伝えましたね。

——最後に全国のファンにメッセージをお願いします。

本当に面白い組み合わせになりました。私自身も楽しみですし、子供たちは良い意味で緊張感を持って試合に臨めるのではないかと思います。久夫先生が亡くなられて、初めてのウインターカップで、これまでとは違った明成を見せられると思います。それでも、芯は変わらないです。楽しみにしていてください。