井手口孝

昨年大会で準優勝という結果を残した福岡第一は、12月23日より開幕する『ウインターカップ2023』で4年ぶりの王座奪回を目指す。3月の九州大会で196cmのアピア・パトリック眞(3年)、9月のU18トップリーグでゲームキャプテンの崎濱秀斗(3年)が負傷。主力2人が長期離脱というアクシデントに遭遇したものの、ウインターカップは主力が全員揃った状態で迎えられそうだ。大会まで残り1カ月を切った現在、エネルギーあふれる細やかな指導でチームを仕上げている井手口孝コーチに、苦しんだ1年の振り返りとチーム作りに対する手応えを聞いた。

上位進出の鍵はケガから復帰した崎濱&アピアのアジャスト

ーー今年度のここまでの振り返りをお願いします。

良い形でいけそうな感じだったけども、アピアの怪我からチームがどんどん、悪いほうに悪いほうに行ってしまいましたね。当初考えていた構想通りとならず、現在に至るという感じです。アピア以外の生徒たちも小さな怪我が多く、鍛えようとしたら誰かがいないという状況が慢性的に続きました。

ーーただ、アピア選手と崎濱選手はウインターカップに間に合うそうですね。

アピアも含めて、12月からは今年1月の状態にやっと戻れるのかな。ウインターまで時間はないけど、3年生だしなんとかなるかと思います。

ーー2人が離脱している間に、3年生の小野結大選手や1年生の宮本聡選手、耀選手が伸びてきました。

小野や高口陽季は新チーム始動当初、果たして今年ロスターに入れるだろうかという存在でしたが、しっかり力をつけてくれたので、チーム力の底上げができました。宮本兄弟は1年生だし、背が低いし、ミスも多いですけど、うちのバスケットをよく理解しているからミスをしてもあまりストレスがないし、チームによくマッチしていると思います。

ーー11月の県予選は準優勝。福岡大学附属大濠に負けたのは6年ぶりとのことでした。

そうみたいですね。でも大濠には何十年も負けていたから、逆にそんなにずっと勝っていたかなと思いました(笑)。河村(勇輝=横浜ビー・コルセアーズ)が2年の時からですか。

ーー怪我人がカムバックした現在の、チームの強みや強化ポイントについて教えて下さい。

アピアと崎濱をどれだけチームにアジャストさせられるかが一つの鍵ですね。だから、トップリーグでは勝ち負け度外視でプレスや速い攻めにこだわりました。今までは1年がかりで鍛えて、12月になったらもう「スタート5人に任せておけば言うことないよ」と言えたんですけど、今年は本番までの残り1カ月でなんとかチームケミストリーを完成させられるかなという感じです。下地はある程度できているので、監督の手腕が問われるところですね。

ーーチームのコンディションが整わず、眠れない日々が続くようなことはありましたか。

むしろ万全な代のほうが眠れないです。「勝たなきゃ」とか「負けたらおかしいだろう」みたいに思ってしまって。監督には責任がありますから当然のことなんですけどね。今年はそこまでたどり着けていない状態なので、あるものをやりくりをしながら、それでもその場限りの戦術は使わずに練習しています。ウインターカップはちょっと難しい組み合わせになったけど、アピアと崎濱が間に合って、ハマってくれれば多少は抵抗できるんじゃないかな。

福岡第一

バスケットの重さと深さを学んだ恩師・佐藤久夫氏

ーーウインターカップは1回戦で仙台大学附属明成と対戦。故・佐藤久夫コーチとの縁を感じる組み合わせになりました。

予想通りというか、来るべくして来たかなという。インターハイも準々決勝で当たりました。県で優勝していれば逆サイドの山に入っていたので、これも宿命だったのかなと。

ーー佐藤コーチとの思い出をうかがえますか。

いっぱいあるけど、一番はジュニア(ハーパー・ジャン・ローレンス・ジュニア=東海大)たちがウインターカップの準々決勝で明成に負けた年かな。佐藤涼成(白鷗大)たちが準決勝で帝京長岡に負けた年もそうだったけど、久夫先生は苦しい時に私の近くにいてくれたんです。東京体育館のあまり人が見えないようなところで、ばんと出会って、ハグしてくれて。言葉はないんですけど、私は泣いちゃうわけですよ。先生は何も言わないけど、勝負の重さとか、負けた時の苦しみや痛みみたいなのを多く語らずに感じ取ってもらったシーンが何度もあるんです。本当に悔しい負けを喫した時にも「負けを引きずるな」と電話をいただいた。心温かい人でした。

ーー経験がないとできないことですね。

八村塁くんが優勝した時に、久夫先生も「バスケットは楽しいですね」とおっしゃっていたけれど、あれはそれだけ苦労した人だからこそ言えることだったと思います。あれが重さ、深さだなと。私は久夫先生の足元にも及ばないけど、バスケットがすごく楽しいって言えるまではものすごく厳しいことや辛いことがいっぱいありました。少しでも近づきたいと思って頑張ってきましたけれど、大きな、大きな目標がなくなってしまった。

しかし、また明成戦ですかと。しかも初戦から。ヘッドコーチは畠山俊樹くん。初めてウインターカップの決勝に行った時に戦ったのが、彼がキャプテンの時の明成でした。長くコーチをやっていると、巡り合わせを非常に感じますね。

ーー最後に、ファンの方々にウインターカップに向けてメッセージをお願いします。

強い、福岡第一らしい、「福岡第一が戻ってきたな」と思ってもらえるバスケットをやりたいので、少し期待してください。