盛實海翔

文=鈴木健一郎 写真=幡原裕治

「タフな相手に思い切ったプレーができた」

サンロッカーズ渋谷にとって水曜の千葉ジェッツ戦は100点ゲームの大敗。スコア以上に内容で千葉に圧倒され、『総合力』で太刀打ちでないショックの大きな敗戦となった。伊佐勉ヘッドコーチは「前回に対戦した時からこちらもレベルアップして臨んだつもりでしたが、千葉さんはそれ以上に成長していた。完敗です」と、素直に負けを認めている。

そんな試合で収穫を探すとすれば、盛實海翔の活躍だ。インカレを終えて昨年末に特別指定選手としてSR渋谷に加わった盛實は天皇杯でデビューを飾り、この試合では初の2桁得点を記録。プロ選手が相手、それもエナジー満点のディフェンスでリーグ首位を快走する千葉を目の前にしても物怖じすることなく、アタックを続ける姿勢が印象に残った。

「自分としては、タフな相手に思い切ったプレーができたと思います。自分のプレーをやるしかないと思っていたので、そこは良かったです」と、盛實は自身のパフォーマンスを振り返る。

プロ選手となれば鍛え方が違うし、外国籍選手とのマッチアップも起こる。「フィジカルの部分で差はあるだろうと思っていましたが、それ以上でした。練習でも試合でもそれは感じます」と面食らってはいても「でも、シュートはまあまあ通用します」と自信も得られている。

伊佐ヘッドコーチも「大学3年ですがプロでこんなにできるのか、という印象です」と盛實を評価している。「まず物怖じしないメンタル、判断の早さです。シュートに行く時、インサイドに行く時、ボールを離す時の判断が、本当に大学生なのかとびっくりするぐらい。確実にローテーションに入ってくるイメージです」

盛實海翔

「自分にできることを精一杯やるだけ」

どんな選手にとっても、カテゴリーを上げて『自分らしさ』を表現するのは簡単ではないはず。盛實によれば、それを可能にしている理由は2つ。一つは「プロだからと意識せず、自分のシュートを打つことを意識しています」ということ。この試合も最初の得点は、インサイドに切り込んで相手をギリギリまで引き付けた広瀬からのアシストを受けたコーナースリーだった。「周りがノーマークを作ってくれたので、思い切って打つのが大事な場面でした」と盛實は言う。

もう一つは、特別指定でチームに加わったばかりの自分がどうやって貢献できるかを考えた時に、シンプルに持ち味を出すという答えに至ったことだ。「使ってもらうからには自分の持ち味を出さなきゃいけないので、今は自分にできることを精一杯やる、それだけを考えています」

「年末にチームに加わって1カ月ちょっと。試合ばかりであまり練習ができていなくて、ディフェンスのシステムが大学までとは全然違って、そこが大変というか試合でもミスをしてしまい、チームに迷惑をかけてしまっています」と課題を語るが、そこはチームとしてもある程度は織り込み済み。それでも、上々だった最初の1カ月から指揮官の言葉通りローテーションに組み入れられて出場時間を伸ばすには、ディフェンスの課題もクリアしていく必要がある。

まだ大学3年の盛實にとって今の挑戦は、大学の新しいシーズンを前にプロの世界を体験する『お試し期間』のようなもの。それでも彼は「今はこうして良い経験ができているので、それを繋げてレベルをどんどん上げていきたいです」と、すべてを貪欲に吸収し、いずれ本格的にスタートするであろうプロキャリアへと繋げるつもりだ。

「ヘッドコーチはアタックしろ、自分の良さを出していけと言ってくれます。チームメートもいつも支えてくれて、特に(ロバート)サクレ選手は事あるごとに声を掛けてくれて、僕にとってはそういうのが非常にありがたいです」と周囲への感謝も忘れない。

期間限定のプロ挑戦は、盛實にとって最高の刺激になっている。大学に戻るまでに彼がどのように成長し、変化していくか、注目していきたい。