「千葉ジェッツとの初戦をファイトバックして勝てたのは大きな分岐点だった」
昨季の仙台89ERSは6シーズンぶりとなったB1での戦いを19勝41敗で終えた。しかし、今シーズンはここまで7勝7敗と上々のスタートを切っている。他のクラブと比べ、決して多くない限られた補強費の中、就任3年目を迎える藤田弘輝ヘッドコーチは、強靭なメンタルとハードワークを浸透させてチームを着実に進化させている。仙台躍進を牽引する指揮官に序盤戦の振り返りと、これからの意気込みを聞いた。
――バイウィーク前までで7勝7敗ですが、この成績に対する評価を教えてください。
まず、開幕4連敗のスロースタートからカムバックできたのはすごく良いことでした。勝負は時の運もある中で、横浜BCとの第2戦など勝てる試合を落としてしまったこともありました。でも今シーズンの目標はまず勝率5割の30勝なので、7勝7敗でバイウィークに入れたのは良いことだと思います。
――まだ試合数は少ないですが、スタッツで見ると特にディフェンス面はリーグ上位の数字を残しています。この数字に関して、しっかりした手応えはありますか。
僕らはディフェンスにすごく重きを置いていて、間違いなく練習量も多いです。ディフェンスは常にハードにやっているので、その成果が現れていると思います。もっとサイドのディフェンスでシューターに対して詰められる、高い強度をもっと長い時間継続できるなど、完璧を求めたらきりはないです。それでも、より高みを目指して日々精進していくことは大事なので継続的していきたいです。
個人で言うと、新戦力である阿部(諒)、ヤン(ジェミン)のポジションがサイズも身体能力もアップグレードしたことで、個の力でやられる回数も減ったのかなと。また、昨シーズンから在籍して、一緒に積み重ねてきた選手たちのインテンシティ、戦術理解度も上がって、コンビネーションも高まっています。
――オフェンス面はどうでしょう?
ディフェンスと同じく、一つずつ積み重ねているところですが、数値でいうとペースも上がって、ポゼッションも増えていて、全体的にやりたいバスケットは浸透してきています。あとは細かい部分を詰めていくところです。昨シーズンはB1に昇格して相手のディフェンスの強度、遂行力が上がっているのに対し、セットプレーがすごく多くてアドバンテージを取るのに苦労しました。それでショットクロックがどんどん減って、苦しいシュートを打つ回数が増えていく印象でした。今シーズンは、より早い段階でペイントアタックをするなど仕掛ける時間を早くしたり、やりたいオフェンスは変わっていないですが、やり方を少し変えている部分はあります。
――新戦力の阿部選手はここまで平均13.0得点を記録し、島根に在籍していた昨シーズン(平均3.8得点)から大きな飛躍を遂げています。島根時代と大きく役割は違いますが、ここまでの活躍は予想できていましたか。
阿部ちゃんに関しては元々、得点の才能があったと思います。獲得する前、彼がシュートを打った本数が最も多い5試合くらいを見てアタックの仕方などでセンスがあるのは見えました。だから、ウチのオフェンスにハメたらエース級の活躍ができると確信を持ってリクルートしました。
――現在のように、開幕から昨シーズンよりも良いスタートが切れる自信はありましたか。
はい、プレーシーズンで良いバスケットができたのは、1つ大きなポイントだったと思っています。去年は開幕前の東北カップでB3のチームに負けたり、なかなか乗れなかった部分がありました。それが今年は充実したトレーニングキャンプが送れ、(東北カップ優勝など)プレシーズンで良い結果を残せたことで、自分たちができるという成功体験に繋がりました。
ただ、手応えを得た中で開幕4連敗した時は、自分も精神的にダメージが大きかったです。そこで次の千葉ジェッツとの初戦をファイトバックして勝てたのは大きな分岐点だったと思います。その後でケガもありましたが、それを言い訳にせず、自分たちにベクトルを向けてやれています。これを残り46試合継続していけるか、それが一番の大きな戦いになると思っています。
シーズン中盤戦に向け「若手が成長できるかは、本当に鍵になってくる」
――ここまでの仙台の戦いぶりをみると、球際の激しさなどハードワークの部分で相手を上回ることで流れをつかむ展開が多い印象があります。この点に関しては、藤田ヘッドコーチが掲げてきたチームスタイルがより浸透してきたという手応えはありますか。
この点に関して言うと、ナイナーズが今まで築き上げてきたハードワークのチームカルチャーが間違いなく土台としてあります。僕が就任する前から在籍していた選手たちも数人いて、彼らが日々投げ出さないで何年間もやり続けたからこそ今があります。B1に昇格できず、B2で何年もチャレンジを続け、昨シーズンにB1に復帰できましたが、人件費が少ない中で資金力のあるチームにボコボコにされました。本当に苦しい経験でしたが、そこから学ぶこともありました。その経験を生かして、今シーズンはアジャストをすることができています。苦境の中でもファイトを続けてきたカルチャーが、ナイナーズの一番の強みだと思います。
――このカルチャーを体現する存在として、ベテランの片岡大晴選手の存在はやはり大きいですか。
ソルジャー(片岡)が、チームにいるといないとでは大きな違いがあります。チームメートやスタッフなど、関係者すべてとの接し方だったり、目に見えないエナジーでチームを良い方向に導いてくれます。彼の存在は非常に大きいです。
――では、若手選手たちのステップアップについてどう見ていますか。岡田泰希選手、渡部琉選手といった若手の底上げは、中盤戦に向けて必要となるように思います。
彼らが成長できるかは、本当に鍵になってくると思っています。一歩ずつ前に進んでいくためにも、まずは自分を信じてアグレッシブにプレーしてほしいです。それができる環境を整えられるように、僕を筆頭にチームとしてサポートしていきたいです。泰希や琉が成長したら、絶対にチームのプラスになります。