ジェームズ・ハーデン

スター選手がエゴを抱えたままではナゲッツに勝てない

クリッパーズはジェームズ・ハーデンを獲得し、カワイ・レナードとポール・ジョージ、ラッセル・ウェストブルックのコアに彼を加えた豪華な陣容でNBA初優勝を狙う。それでも『ビッグ4』が機能するかどうか、疑わしい部分も多い。

ケガの多いカワイとジョージが欠場してもハーデンがサポートできると考えれば、レギュラーシーズンで好成績を残すのは確実だ。それでも、クリッパーズの目標はプレーオフで結果を出すことで、そのためにはベストな陣容が何なのかを見極め、春までに成熟させる必要がある。その上での問題は、互いにベストを探る過程は良いとしても、成熟する頃にはそれぞれのエゴが衝突するであろうことだ。

ハーデンはロケッツ時代はオフェンスのすべてを取り仕切る『王様』だったが、その後は自らを『ディストリビューター』と称してプレーメークに比重を置いた。ネッツではケビン・デュラントとカイリー・アービングの得点力を引き出し、セブンティシクサーズではジョエル・エンビードをシーズンMVPへと引き上げた。だが、彼が今回シクサーズと揉めてまでも移籍を強行したのは、引き立て役では満足しなかったからだ。今の彼は得点にはこだわらないが、エゴを捨てたわけではない。『王様のように扱われるプレーメーカー』が彼の望みで、得点面での犠牲が過小評価されていると感じた瞬間、彼はシクサーズに背を向けた。

昨シーズンにシクサーズを率いていたドック・リバースは『ESPN』に興味深い証言をしている。昨シーズン前半の彼はプレーメーカーとして高い能力を発揮していたが、シーズン途中に突然、「セカンドユニットを引っ張る時間を増やしたい」と希望してきたそうだ。それは彼がオールスター選出から漏れたタイミング。エンビードがベンチに座っている時間帯ぐらいは得点を狙いたい、というハーデンのエゴが漏れたということだろうが、ハーデンをプレーメーカーに据えるスタイルは見事に機能しており、プレーオフに向けて成熟させていくのが優勝への最善策なのは明らかだったのに、彼は逆のことを望んだ。同じことがクリッパーズでも起こるかもしれない。

ウェストブルックに代わりハーデンが先発ポイントガードとなると予想されるが、それがチームにとって最善の手とは限らない。ウェストブルックはレイカーズでセカンドユニットを受け入れたが、それは彼が持つ爆発力を縛るもので、クリッパーズ移籍を機に「自分らしくあれ」とのアドバイスを受けて彼は復活した。今のクリッパーズをダイナミックなプレーで攻守に支える彼を先発から外す場合、これまで「自分らしくあれ」と彼を励ましてきた指揮官タロン・ルーは、どんな説明をするのだろうか。それでウェストブルックは納得するのだろうか。

実際のところシクサーズとの決別は、プレースタイルではなく契約の問題から起きた。34歳のハーデンはキャリア最後の大型契約を望むも、シクサーズはそれに応じなかった。では、クリッパーズはどうするのだろうか? カワイとジョージも契約更新の時期を迎える。クリッパーズとして優先したいのは在籍年数が長く、ハーデンより1歳若いジョージと2歳若いカワイだろう。ウェストブルックは今夏、クリッパーズでプレーするために2年800万ドル(約12億円)という格安の契約を受け入れた。契約最終年を迎えているハーデンは、クリッパーズにどの規模の契約を要求するのだろうか。それがすんなりと決まらない場合、彼はどういう態度を取るのだろうか。

NBA優勝という目的に向かって、クリッパーズのスター選手たちは一致団結できるかもしれない。全員が若くはなく、ケガの不安もあるため、レギュラーシーズンでは上手くローテーションして戦えるかもしれない。しかし、全員が健康なままプレーオフを迎えたとしたら、その時は誰もがプレータイムと役割を求める。その時にチームの団結は保たれるのか。『ビッグ4』の全員が相応の自己犠牲を払うことができるのか。

そう考えた時に、やはり懸念されるのはハーデンだ。純粋なポイントガードのいないチームに自分が加われば優勝を狙えると考えるのは間違ってはいないが、『王様』として振る舞いたいという欲求が少しでもあるのなら、クリッパーズにとっては大きなリスクとなる。

ハーデンが加わったことで、「クリッパーズは誰かがケガをしても戦える」という見方もあるが、それは楽観的すぎる。今の西カンファレンスにはナゲッツという王者が君臨し、それを上回るチーム作りが求められている。ケガ人の出るリスクで言えば、ベテラン揃いでケガがちな主力の多いクリッパーズと若くて健康なナゲッツでは比べるべくもない。両チームともに健康という前提で、ナゲッツを上回る実力をシーズンを通して養わなければ、NBA優勝は夢物語でしかない。ハーデンは間違いなく今も強力な戦力で、その獲得はクリッパーズにとって大きな戦力アップとなるが、優勝候補と見なす前にエゴの問題を片付ける必要がある。