ビクター・ウェンバニャマ

「目の前にチャンスが現れたら躊躇してはいけない」

スパーズには若いチームにありがちな勢いだけではない力強さがある。そしてビクター・ウェンバニャマには、並のルーキーとはまるで違う、レブロン・ジェームズやケビン・デュラント級の恐るべきポテンシャルを秘めている。そう痛感させられる試合だった。

サンズは2日前にも同カードを落としている。その時は長らくリードを奪いながら終盤に猛追を受けて逆転負けを喫した。その時は足のケガで欠場していたデビン・ブッカーが復帰し、もう死角はないはずだったが、第1クォーターを20-39と圧倒され、第2クォーターも35-36とスパーズに上回られた。

前半、スパーズの3ポイントシュートは21本中12本成功と大当たりだったが、これは偶然決まり続けたわけではなく、ピック&ロールから簡単にズレを作られ、ワイドオープンを許した結果だ。フィールドゴール成功29のうち23にアシストが付き、ウェンバニャマは高さとスキルを生かして20得点をマークしていた。

サンズは後半、ウェンバニャマを止められないユスフ・ヌルキッチとピック&ロールの対応に課題のあったジョシュ・オコーギーの先発2人を外し、渡邊雄太を後半のスターターに抜擢してディフェンスから立て直しを図る。欠場明けで前半は力をセーブしていたブッカーがギアを上げて、デュラントと噛み合うようになるとオフェンスに勢いが出て猛追。最大27点のビハインドがあったが、第4クォーター残り4分20秒で116-116の同点に追いついた。

しかし最終スコアは132-121。クラッチタイムとなるその後の4分20秒は16-5でスパーズがサンズを圧倒した。渡邊が、デュラントがワイドオープンのシュートを外した一方で、ウェンバニャマはそれを易々と決める。クラッチタイムにウェンバニャマは10得点を挙げて、勝利の立役者となった。

特筆すべきは、ウェンバニャマがポストアップやペリメーターから個人能力で打開したのではなく、トランジションで走り、オフ・ザ・ボールでも質の高い動きを見せていたことだ。ウォリアーズがステフ・カリーを、ナゲッツがニコラ・ヨキッチをチームの美しい連動の中で生かすように、スパーズもチームプレーの中でウェンバニャマという強烈な個性を輝かせた。

ジェレミー・ソーハンはクラッチタイムのウェンバニャマの活躍を「ホットだったね」と笑顔で語った。それでも当の本人は「目の前にチャンスが現れたら躊躇してはいけない。ビッグプレーを狙う強い気持ちを持つことが成功の条件だと思う」と語るに留め、あくまでチームの戦いであることを強調した。「誰かがやらなきゃいけないことだ。前の試合ではケルドン(ジョンソン)だった。今日は僕で、明日はチームメートの誰かがやる。こうやってチームとして戦っていくんだ」

ウェンバニャマは38得点10リバウンド2アシスト1スティール2ブロックを記録。10代の選手が35得点、10リバウンド、2ブロック以上を記録したのは、1973-74シーズンに記録を取るようになって以降、3人しかいない。レブロン・ジェームズ、ケビン・デュラント、そしてウェンバニャマだ。

そのパフォーマンスを目の当たりにしたデュラントは「信じられないほどの才能の持ち主だよ」とウェンバニャマを称えた。