6季ぶりにB2に復帰した岩手ビッグブルズは元新聞記者の水野哲志社長の下、家族的な雰囲気と地域に根差した活動を続けて集客を伸ばしてきた。後編では2026年から始まるBリーグの新体制を前に経営、集客力を強化していくビジョンを聞いた。広い県内、大雪にも見舞われる岩手県でブースターを集める工夫とは。

「コロナ禍で我慢してきた方々の楽しみになれば」

──2026-27年シーズンからBリーグはレギュレーションが変わりますが、すでに審査は始まっています。岩手ビッグブルズはどのような状況でしようか。

去年は平均入場者数が1,500人を超えて、B3では1位でした。B2を含めても30チーム中、7番目ぐらいです。満足は全然していませんが、少しずつ伸びてきていると実感しています。『B.LEAGUE PREMIER』、『B.LEAGUE ONE』、『B.LEAGUE NEXT』と再構成される中で、まずはONEをしっかり狙って、その後にPREMIERに行ければと思っています。財務的には売り上げも去年でほぼ達成しました。ONEに関しては集客が1,500人のクラブに仮ライセンスを認めるという話は出ているのですが、そこに満足すると全く伸びないと思うので、今年の目標を2,400人と置きました。今まで来てくれた方々が1人連れてきてくれれば、達成できる数字です。フロント、スタッフが必死になって考えています。

──チームを運営する上で集客力を高めることか大事ですが、どのように取り組んでいきますか。

去年のプレーオフは平均2,700人入って、準決勝は3,500人と、クラブチームで1番入りました。ポテンシャルはあります。当然、市や協会さんとも連携は必要です。岩手ビッグブルズの認知度が岩手県で90%を超えているという調査も出ていたのですが、 知っていても足を運ばないという現状があります。今、18歳以下と65歳以上の方々は常に無料です。始めたのは新型コロナの感染が拡大していた時期です。皆さんが外出をしないよう、しっかり守られている方が多かったと思いますし、その結果、岩手県は最後までコロナの感染者が出ませんでした。我慢されている方々の楽しみになれれば、おじいちゃんやおばあちゃんが孫と一緒に足を運ぶような光景を作れればと思って、その制度を始めました。それが今でも良いフックになっているかと思います。そこからコアファンになるというのは十分感じています。奥ゆかしいというか、引っ込み思案の方が割と多い県なので、1回足を運んでいただければ2回、3回と繋がる。その1回目をどうするかを考えています。

──県内の自治体とはどのように連携を取っていますか。

岩手県はものすごく広くて、四国と同じぐらいの面積があります。県内は33市町村。端から端まで4時間ぐらいかかります。盛岡での試合が多い中、岩手ビッグブルズという名前をつけさせてもらっているので、全市町村がホームタウンになればいいですよね。33市町村を15ブロックに分けて、無料招待券を作っています。去年も何千人単位で観客は来たので、巻き込んでいければいいと思っています。

プロスポーツ観戦を文化に育てたい

──チケットの有料、無料の線引きは難しいと思います。

1度全員無料で来てもらうというのも一つの案ですが、無料じゃなければ来ない方が増える。例えばこの試合は無料でもいいけど、年間を通しては集客しましょう、有料で行きましょうというメリハリが必要です。先日、東北の様々な経営者とお話ししたら、前売りが売れないと言っていました。バスケットは冬のスポーツで、すごく雪が降るんですよ。天候で左右されてしまうので、いかに前に売るかが勝負なんですけど、あまり売れていないのが現状です。

東北地方は雪や寒波に影響される難しさもあります。去年は特に雪が多くて、家から出るのに1時間くらいかかります。雪かきと雪下ろしが年間に何日かあって、それでは観戦に行けないとなりますよね。それでも、前売りを買っていただければそれに合わせて行動していただける。有料、無料関わらず集客できると思います。

岩手にはまだプロスポーツにお金を払うという文化、習慣がありません。イベント自体も少なく、エンタメにお金を払うという文化が育っていないんです。東京にいると、日々コンサートやスポーツイベントがあるので、習慣になっていきますが、岩手ではなかなかありません。イベントの代表格にビッグブルズがなりたいとオーナーと話しています。「岩手と言えば?」という質問に、じゃじゃ麺やわんこそばが出てくるんですけど、その中に岩手ビッグブルズが入ることができたら、ゴールとしてすごく良いなと思います。

──アリーナはどうですか?

現状、アリーナは5,000人が収容できます。PREMIERを目指すにはサブアリーナやVIP席がなかったり、トイレの数の問題もあって、業者の方々と話していかなければならないと思っています。並行して成績や認知度を上げていければと思っています。

──今シーズンは開幕から4連敗、5戦目のベルテックス静岡戦で初勝利というスタートとなりました。

鈴木裕紀ヘッドコーチと話したのですが、どーんと構えている印象でした。私は「大丈夫だ」と安心感を覚えています。チーム状況を見ると、主力級の選手が4人ケガをしていて、外国籍選手の契約問題もありました。練習試合もままならず、5対5の練習もほとんどない中で開幕スタートを迎えました。この間の試合は8人で戦いました。評価しづらい部分ですけど、その中でみんな必死に頑張ってくれているので、あとは上がっていくだけかなと思います。コーチ、GMとも「(この期間に)みんなが伸びたら、ケガ人が戻ってきた時にかなり強くなるよね」と話しています。シーズンは長いので、しっかり戦ってくれるはずです。

──これだけは達成したいという目標は何になりますか?

もちろん、PREMIERに行きたいという目標はあります。ただ、私が社長になった時にはフロントの社員は4人しかいませんでした。厳しい時代を乗り越えて、今は15人ぐらいまで増えています。社員、その家族が幸せであること。それが第一と思っています。そうすると、みんなの成績も上がってくるし、いろいろなところにお金を使えるので、バランスが大事です。スポーツ会社はやりがいがあるから残業が多くてもいいという風土はゼロではないと思います。プライベートも充実できるような会社になれればいいと思っています。

──人生で最も大事にしていることは。

人の縁と感謝はすごく大事にしています。チームが成り立っているのは、いろいろな人の助けがあってこそ。今も多くの同級生に助けてもらっていますし、本当に無茶振りしている中でどんどんボランティアも増えています。毎試合来てくれるボランティアが増えているのは、会社にとっての魅力が少しずつ出てきているのかなと思います。

──最後に全国の皆さんにメッセージをお願いします。

岩手ビッグブルズは先ほど言ったようにファミリー感を持って、一つになって進んでいるので、過程や現状を見ていただきたいです。チームとしては、ディフェンスにものすごく力を入れているので、ディフェンスが好きな方々には面白いバスケになっていると思います。個々の能力はB1の選手に劣る部分があるとは思いますが、チーム力で戦っているので、ぜひ岩手に遊びに来てほしいです。美味しいご飯がいっぱいあるので旅行を兼ねてでも、来てもらえればうれしいなと思います。